第22話
目覚めた僕はなにやら鎖で縛られていた。しかも周りは炎で包まれている。
あまりの情報量に僕は混乱しかけたが、恐らくこれは火の魔法の練度を確かめるためのものだろうと、心を落ち着かせる。
しかし一体火の魔法でこの状況をどうやってくぐり抜ければいいのだろうか?火の魔法は確かに習得したけれど、確かに火には慣れたけれど、実際の火を操れるほどには至っていない。できることといっても火に耐えることぐらいだ。この状況を打破するには至らない。
だとすれば残りの魔法を使って切り抜けろということだろう。僕が今習得していない魔法は風と土の二つだ。鎖も壊さなければ逃げられそうにもないし、ここで使うべきなのは恐らく……
「珍しく感がいいじゃないか。そうそう、風魔法のお時間だ」
そう言って目の前に現れたのは風の精霊だった。
いい加減そのワンパターンな出方はどうにかならないのだろうか?いい加減僕も飽きてきた。
「それはしょうがないよ、よく言うじゃない作者以上の頭脳は描けないって。それと同じことだよ」
この世界は想像の世界だったのか!?最近になってやけにメタ発言が増えた気もするけれど、それは作者に限界が来たからなのか!?なれば今までの意味不明な逃避行に説明がつくではないか。
「この場合はどちらかと言うと君の想像力に難ありと言ったところだと思うけどね。あと、君の逃避行での出来事はちょっと主語が違う。詳しくは訓練が終った後にでもあの人に聞いたらいいよ。少なくともここで僕が言うことではないしね」
やけに饒舌に語ってくれるではないか。まぁ、僕の想像力が乏しいのは仕方がない。なんといったって僕は感情が薄いのだから。もっとも今では薄さが薄まってきた感はあるけれど、それがこのワンパターンの演出の原因というならば大人しく謝ろう。
ごめんなさいを七回、先程披露して見せたセブンアポロジーを再びお見舞いしてやろうではないか。師匠に効いたのだから効果は折り紙付きだ。
「だから、君のそんなワンパターンな演技が僕たちのワンパターンな出現につながっているんだって。もうちょっと凝った演出がお望みなら、もうちょっと凝ったリアクションをしてもらいたいね」
それこそ作者以上の何とやらだろうに。作者以上のリアクションを僕はすることができないのだから。そんなことはこの世界の創作者に言ってくれ。
結局僕は創作者の脳内の……
「あぁ、もうやめたやめた。これ以上この世界以外の議論をしていても仕方がない。不毛な議論をしていてもお話は進まないよ?今回の訓練は六ヶ月しかないんだからね」
自分で振っておいて何という言い草だ。しかし、彼女も言うようにこれ以上の議論は意味がないだろう。しかも期限は半年だ。前回よりも半分も短くなっているではないか。
「ほらほら、そんな暇あるのかい?今回は避けることはできないんだからね。しかもその鎖からは逃れることは決してできないよ。あの人お手製だし、何より壊しても一瞬で元通りになるんだ。君がその速度以上で動けるなら話は違ってくるけどね」
やけに丁寧に説明してくれるではないか。今まではおちょくるだけで大して説明らしい説明をしてこなかった気がするけれど。
「確かに君に直接利益になる説明は初めてかもね、だけど今回は何も気まぐれという訳じゃないよ?さっきも言ったように時間は半年だけしかないからね、グダグダしているわけにはいかないんだ。要領良くいこうよ」
いこうよと言われても、僕はここに留まることしかできない。鎖でつながれているのだから。あの世に逝くことはできるかもしれないけれど。
「いちいち揚げ足を取らないでくれるかな?さっきも言ったけど冗談を言っている余裕はないんだよ?このまま冗談に興じてもいいけど、一日経たずに君は絶命するんじゃないかな?意外と窒息死というものはつらいものだよ?」
確かに一日しか時間がないのなら仕方がない。しかし、やけに見てきたように言うではないか。経験した人の物言いだろう。
「そんな細かいこと気にしない。はやくしないと死んじゃうよ?」
そんな子供のようにせかされても、やる気が出るかと言ったら確かに出はするけれど、しかしそんなやる気ではこの訓練は乗り越えられないだろう。何かご褒美が欲しいものだ。
「欲も出てきたねぇ。分かったよ無事にこの訓練をクリア出来たら何でも言うことを聞いてあげよう。ここで共倒れになっても困るからね」
よし来た。この訓練が終われば、彼女にあんなことやこんなことまでできる言質を取ったのだ、そうと決まれば話は早い、パンツの恨みを返してやろうではないか。
「欲が出てきたと思ったら、そんなことでいいのかい。まぁ、変なことをされなければ僕に言うことは何もないよ」
ふふふ。そう思っていられるのは今のうちだ。パンツ道を極めし僕にかかればそんな余裕は瞬く間に消え去ろう。手始めにまずはパンツをかぶせてパンツ仮面ごっこでもさせてみようか。いや、敢えて限界のパンツをはかせて羞恥心を煽るのもアリかもしれない。グフフフフ。
「まったく、何が敢えてなのか。まぁ。妄想に浸るのはいいけどそろそろ……」
ん?何やら炎の向こうから物音がする。まるで機械でも動くようなそんな音が聞こえる。その音には確かに聞き覚えはあったけれど、思い出せない。何だっただろうか……
「君は勘の鋭さを引き換えに記憶力でも失ったのかい?これを忘れるというのはなかなか難しいと思うけど、いやはや、それこそが君のいいところなのかもしれないね。忘れることができるというのも才能の一つだよ。それじゃあ御開帳といこう。あの人がただ鎖につないで火炙りにするだけと思ったら大間違いだよ?今回の特別ゲストは君を苦しめたゴーレム君です!」
何処からか流れてくる壮大な音楽とともに水の魔法で僕を苦しめたゴーレムが現れた。しかも五体。そのエンターテイメント精神には恐れ入るばかりだ。もっとも当の本人であるこの僕は楽しめていないのだけれど。
しかし実物を見てようやく思い出した。何故このゴーレムを忘れていたかは分からないけれど、僕の記憶力にはつくづく嫌気がさすものだ。たった一年前のことですら忘れているのだから。
だが、思い出したからと言ってなんにもなるわけではない。僕は鎖から逃れることはできずにゴーレムたちからもれなくプレゼントを頂戴した。
僕の今回の訓練は腹パン五発から幕を開けたのだった。
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