第23話

 腹パンを五発喰らったからと言ってくたばる僕ではない。即座に治癒の魔法を発動し、傷を修復する。今では特に集中することもなくただ「ヒール」とつぶやくだけで、魔法が発動するようになっていた。


 何もヒールという言葉に意味があるわけではない。ただそのヒールという言葉に魔法発動までの動作を紐づけるさせることでつぶやくだけで、魔法が発動できるようにしただけのことだ。言葉は何だって言い。ただイメージがつきやすい言葉を選んだだけのことだ。


 逆に見当違いな言葉を選べば対人戦において効力を発揮する。例えば治癒の魔法の一連の動作、コードを「パンツ」という言葉に紐づければ相手に二重の意味で混乱を与えることができる。


 やはりパンツは最強の存在だ。訓練を積めば積むほどあらゆるパンツの用途が思いつく。ここまでに有効活用できるものが今まであっただろうか。いや、少なくとも僕は知らない。


「パンツ熱を語るのもいいけど、そのままだと殴られるだけだよ?さっさと鎖から抜け出すかゴーレムたちに反撃しないと」


 そうは言われてもできないことは仕方がない。ここは殴られながらエネルギーを練るしかないのだ。


 ひとまずはこの鎖を断ち切るべきだろう。師匠お手製の鎖なのだ、ゴーレム同様一筋縄ではいかないだろう。


 しかし、今回は水の魔法ほどの大出力でなくていい。幾分かは楽にできるだろう。


「小さく強力にというのが一番難しいんだけどね。まぁやってみなよ」


 その言葉が正しいことを示すかの如く、僕は魔法の発動に失敗する。何度やってみても鎖は断ち切ることはできなかった。


 ゴーレム五人衆がいなければ話は別だろうが。ゴーレムのおかげで僕は治癒の魔法を使いながら風の魔法を発動するためのエネルギーを練っていた。


 だが、ここで素直にやられる僕ではない、数十回の試行を経て僕はやっとこさ鎖を断ち切ることができた。


 やっとの思いで脱出した僕にかけられた言葉がこれだ。


「別に水魔法でも良かったんだけどね、鎖を切ることに関しては水魔法の方が効率がいいよ。まぁ風魔法を習得できたんだから結果オーライってとこか。君の先入観に助けられたよ。いやはやあの人は君のことを確かに掌握しているようだ。さすがだね」


 そういえば聞いたことがある。細く高速で放たれる水は何でもいかなる物質をも切ることができるのだと。


 まったく僕というやつは視野が狭い。しかし、これから風魔法を取得する手間が省けたことはラッキーだった。これは初めて師匠を出し抜けるんじゃないか?


「だからあの人は君のことを掌握していると言っただろう?そんなことお見通しさ。因みにちゃんとそのゴーレムを倒して、この火をすべて消火するまでがゴールだからね」


 ゴーレムを倒すことなど今の僕には容易いことだ。それがたとえ五体だったとしても。


 僕は水魔法をゴーレムに放つ。これでゴーレムたちは真っ二つのはずだ。周りが火の海だとしても大した影響はない。




「へ?」




 しかし僕の口から出たのはあまりにをお粗末な声だった。それもそのはず、ゴーレムたちは全くと言っていいほど無傷だったのだから。


「クスクス。いやあ見上げた精神だよ。まさにエンターテイナーだね。いやあ愉快愉快。今回のゴーレムはその鎖と一緒の素材で作られている。鎖一本でさえあんなに苦労したというのにどうやって倒すんだろうね、五体も。クスクス」


 なんと、そのゴーレムは師匠お手製の金属製だったのだ。これを僕は風魔法で倒さなければならないのか。


「別に風魔法で倒す必要はないけどね。ただ風魔法が一番倒しやすいのは事実だよ?水とか火だと間違いなく一年は超えるだろうね、再生能力ももれなくついてるんだし」


 なるほど。さすがの師匠だ。意地悪さに欠けては右に出るものは恐らく存在しないだろう。恐らく人間の中では。


 僕はこのゴーレムを倒すために、先程の威力のまま規模を大きくしなければならなかった。ここまでの防御を誇るゴーレムを一時間で破壊するには手数も増やさなければならないだろう。


 今回の訓練もまた一段と骨の折れるものだ。この訓練には飽きが来ていたけれど、かといって投げ出すわけにはいかない。


 僕はため息をつきながらも訓練を始める。


 しかし、一年という期間は僕には長かったようで、五体すべて倒し終わるのに半年とかからなかった。正確には分からないけれど、恐らく三ヶ月もかかったかどうかわからない。


 残りの火の海だが、これは水魔法を駆使して一日足らずで消火し終わった。


 師匠にしてはやけに軽い訓練だったなと思いつつ、師匠の下へ帰ったのだった。



 以上の時間をかけて。

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