第24話

 ゴーレムを倒し、消火し終わりいよいよ師匠の下へ戻ろうと思った僕はあることに気づく。


 そう、僕は帰り道が分からない。気絶していた間に連れてこられたのだから当たり前だろう。


 頼みの綱の精霊も、


「帰り道は自分で探してね、とりあえずこの森の外のどこかにあるから。それじゃあ頑張ってね」


 とだけ言い残して消えてしまった。


 森から出るのは簡単だ、水魔法で空を飛べばいい。


 しかし、そう簡単にはいかなかった。水魔法で空へ飛び、移動しようとした瞬間目に見えない力が働き僕は地面に打ち付けられた。


 文字通り、釘のごとく。僕は頭から地面に激突し、顔が埋まってしまった。


 そんなこともあって、絶賛僕は道に迷い中なのだった。


 空を飛んで分かったことと言えば、森の境が何処かわからないほどに地平線が緑だったことと、ずるはできないということだ。


 僕は道なき道を、これと言った道しるべもなくただ歩いていた。方角すらわからない。空は一面の緑で覆われ、太陽が何処にあるか分からないからだ。これでは調べようがない。ずっと森の中は暗いままだった。


 恐らくこれは実戦経験を積んで来いとのことだろう。残りの時間をかけて生きる力をつけて来いということだろう。森には魔獣も多く生息しているようだ。


 それを示すように、向こうから足音が聞こえる。僕の予想が、記憶が正しければ、この足音の主は恐らく……




 僕の予想は当たったようだ。過去二度にわたって僕を追い詰めたあのウサギが目の前に現れた。


 しかし、ここで失神するような僕ではない。ここで以前のように叫び声をあげて逃亡するような僕をお望みなら、それは叶わない。


 今の僕は魔法はおろか格闘術まで使えるのだ。この際トラウマ克服もかねて格闘術のみで相手をしてあげよう。今の僕はあのウサギよりもはるかに力をつけたのだから。


 果たして、この勝負は僕の勝利に終わった。確かに最初はトラウマもあって引け腰だったけれど、開始数秒で相手の攻撃が僕に通じないことが分かると、あとは一方的だった。


 少しばかりひっかき傷はもらったものの、ものの一瞬で元通りだ。圧倒的と言っていいほどの勝利だった。


 僕はウサギの腐敗が進まぬうちに解体を始める。思わぬ形で風魔法が役に立った瞬間だった。


 多少は雑になってしまったが、素人にしてはきれいに解体できただろう。僕は水魔法も今では使えるのだ。血抜きに関しては完璧だった。


 しかも、今の僕は火魔法さえ使えるのだ。師匠に感謝するのは癪だけれど、ここは大人しく感謝しておこう。ウサギ肉の丸焼きを食せるのだから。


 自分よりも二回りも三周りも巨大なウサギだったけれど、意外と食べ残しはなかった。数々の訓練を経て僕が必要とするエネルギーもまた多くなっているようだった。


 ウサギ丸々一匹食してもなお、僕の空腹は満たされない。これでは何より餓死の心配をしなければならないだろう。


 しかし、ウサギを軽くあしらった僕にかなう敵はもういないだろう。トラウマすら克服した僕にはもう敵はなかった。少なくともこの森の中では。


 ウサギの数倍の大きさを誇る魔獣ばかりだったけれど、魔法を使えば一撃だった。父上ですら苦戦するという竜のような魔獣すら一発だった。もちろん倒しすぎるということはない。食べきれない量を倒してもただの殺戮となってしまうからだ。そこまで僕は落ちぶれてはいない。


 結局、道に迷う以外の壁は存在しなかった僕は半年で森を抜けだすことに成功した。


 森を抜けるとそこは一面荒れ果てた荒野だった。高く飛んでも師匠のあの家は見えなかった。


 森の外では空を飛ぶことが可能なことを確かめると、僕は勢いよく飛び出した。


 無事に数週間後、師匠の家にたどり着けたのだった。


 こう言うと余裕そうに聞こえるけれど、用意した食料は切れかかっていたから、体力的にはギリギリだったことを一応言っておこう。

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