第25話
「いやはや、流石私ですね。ピタリ賞連発ですよ。私ぐらいの情報量と計算能力さえあればあなた一人の未来を計算するなんて簡単なことなのですよ?」
とんでも発言だった。僕の一年後を計算したらしい。意味が分からない。そもそも僕だけでなく周囲の環境まで計算が必要なはずだ。そんな計算が一人でできるはずもない。
いや、確か師匠は人間ではなかったはず。ならばその正体もおのずと分かるだろう。未来計算発言が仮に正しいとするならば師匠の正体はラプラスの……
「おっと、そこまでです。違う世界の概念まで言及してしまっては収拾がつきませんからね。そもそもただの冗談なのですから本気にしないでくださいな。私が逐一調整しているのですからピタリ賞は当たり前でしょう」
もうとっくに言及しまくっている気がするのだけれど……
しかしながら、またもとんでも発言である。これではどう頑張っても一年かかるではないか。いや、逆にどんなに手を抜いても一年で済むということになるのでは?
「さすがに手を抜かれては困りますからね。ある程度まで成長しないと終わらせませんし、何より罰ゲームがありますからね。手を抜くというのはお勧めしませんよ?基準というのも恣意的に決められんですからね?」
どうしようもないではないか。これではただ師匠の欲を満たすただの機械でしかない。
だが、あと土の魔法を習得すればこの地獄からおさらばできるはずだ。師匠の言葉を信じるならば。
「そこは安心してください。土の魔法を習得すれば晴れてこの訓練は終わりですから。では早速最後の訓練を始めるとしましょう。最後はシンプルにゴーレム作成をその課題とします」
今まですべて戦闘形式だったというのに工作とはいささか拍子抜けする訓練だ。しかし、師匠のことだ他にも隠し要素があるはずだ。
「いえ、ただゴーレムを作るだけです。戦闘はありますが、戦うのはあなたではなく作ったゴーレムです。私が作成したゴーレムと戦い勝つまでが訓練となります」
拍子抜けとか言ってしまったけれど、これは下手したら一番難しいんじゃないだろうか?ある意味師匠との最終対決である。最後の訓練だから当たり前だと言ったら話はそれまでだけれど、しかし本当に僕に勝機があるのだろうか?
「手加減はしてあげますから安心してください。手加減なしだったら何年かかってもクリアできませんからね。といってもギリギリ一年で勝てるように調整はしますが」
なるほど。それなら安心だ。少なくとも死ぬまでここに閉じ込められるということはなさそうだ。
しかしながら、少し引っかかる。今まで特に疑問は抱いてこなかったけれど、最後まで期間が一年というのは何か理由でもあるのだろうか?
「別に理由なんてものはありませんが、まぁ強いて挙げるなら一年という期間がちょうどいいからですかね。まぁ訓練というのは五年で終わるぐらいがちょうどいいんですよ」
そんな話は聞いたことないけれど、まぁ師匠が言うならそうなんだろう。
「納得したようですし、始めましょうか。まずはゴーレム作成ですが、これは簡単にできるでしょう。ここで肝になるのはどう動かすかですからね。そこは自分で考えてください」
これまで覚えた魔法でどうやってゴーレムを動かせばよいのだろうか?確かにゴーレムを作るだけならすぐできるだろうけれど、師匠の攻撃にも耐えるゴーレムを作ることならできるだろうけれど、しかし師匠のゴーレムに勝つゴーレムを作れるとは到底思えない。
「魔法なんてものは発想の勝負ですからね。まぁあなたが覚えた魔法では絶対といっていいほどそのようなゴーレムを作ることはできません。これだけは断言しておきましょう。無駄な努力ほど意味ない者はありませんからね。どうぞ考えてください」
そう言われた僕は、とりあえず作るだけ作ってみた。僕の渾身の拳にも耐えうるだけの耐久は持たせることはできたけれど、どう頑張っても動かない。
僕が操作することもできないし……
いや、操作はできるのではないか?あの精霊たちを使えば、ゴーレムをあの精霊たちにリンクさせれば可能なのではないか?師匠のゴーレムと対決することが可能ではないか?
なんて一瞬で思いついたように言ったけれど、この考えに行きつくまでに一月はかかった。ゴーレムの作成時間もあったことだし。
ともあれ、僕は再び意識を集中させ……
「いやはや、待ちくたびれたよ」
「もうちょっと人を頼るってことを覚えてほしいね」
「僕たちは人じゃないけれどね」
「一人で考えるのも大事だけどね」
「考えすぎるのも問題だ」
「ともあれ一人で思いついたのだからまずはおめでとうかな?」
「おめでとうと続きたいところだけど」
「これ以上は興覚めだから止めておこうか」
「とりあえず僕たちとゴーレムを繋げてみてよ」
「人海戦術と行こうじゃないか」
と僕の試行に割り込んで十人衆が現れた。
しかしながら、いくら最後とはいえ十人勢ぞろいというのはそれこそ興醒めではなかろうか。どことなく安っぽさを感じる。
「まぁまぁ、良いじゃないか」
「これが二回目の登場っていうやつもいるんだから」
「それぐらい大目に見てよ」
「これが最後の登場かもしれないんだから」
と恐らく二回目の登場であろう妖精たちが言った。なるほど、思ったより世知辛い理由での登場のようだ。
「満足したところで早速始めようか」
「早く僕たちとリンクさせなよ」
そうは言ってもやり方が分からない。どうしたものか。
「そんなのフィーリングだよ」
フィーリングと言われても……
しかし、ここはとにかくやってみるべきだろう。
彼女らとのつながりをイメージし僕を媒介としてゴーレムに繋げるようにする。
自分以外のもの、それも生命のないものと繋げるのはいささか苦労したけれど、どうにか成功した。
因みにまともにゴーレムが動くようになるまでは二週間ほどかかった。
「オッケー。だいぶつながりが強くなったね。」
「ゴーレムといってもただの土人形じゃないからね」
「君のエネルギー、いわば魔素でできたものだからね」
「僕たちとの親和力が強いのもありがたい」
この期に及んで「魔素」とかいう新単語が出てきたけれど、わざわざ説明はいらないだろう。人間の世界では赤ん坊ですら知っているようなものだ。
精霊たちとの親和力が高いということは魔素を扱いやすいということも意味する。妖精という存在はある意味魔素の高密度の集合体でもあるのだから。
説明はここまでにしておいて、早速師匠のゴーレムと対決と行こう。今回は行儀よくも僕がまともにゴーレムを作れるようになるまで待っていてくれた。
結果から言ってこの訓練は無事に終えることができた。
対決の模様はこれといって言うべきことはなかった。ただ十体のゴーレムが一体のゴーレムを囲みただ殴り合うだけの何んとも変わり映えのしない対決だった。
一つ言うとしたら、師匠作のゴーレムが対決を重ねるごとにより強く、俊敏になったことだ。
僕が作ったゴーレムすべてがギリギリ壊されないラインを保ちながら、一年が過ぎるまでずっと格闘戦をしていた。
その血も湧かず、肉も踊らない戦いを尻目に、ある意味部外者だった僕はせっせと魔法の鍛錬をしていた。
そんなこんなで師匠のゴーレムを倒すことに成功した僕たちは師匠の下へと戻るのだった。
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