第17話

「師匠!千キロランニング完走しました!次はなんでしょうか?」


「そうですねぇ。ではまず治癒の魔法の練度を確かめましょうか」


 そう言って半年前に喰らったものとおなじ拳を僕は再びお見舞いされた。


 だが、ここで素直にやられる僕ではない。今の自分は治癒の魔法が使えるのだ。


 風穴があいた腹部に集中し正常な状態をイメージする。痛みにはとうの昔になれていた。といっても我慢するだけで精一杯だが。


 僕の体が地面に打ち付けられる前には修復は完了していた。集中しすぎてうまく受け身がとれず岩にもろに激突したのはご愛嬌ということで。


「中々に仕上げてきましたね。次の段階に進んでもよさそうです」


 よし来た。いよいよランニング地獄から抜け出せる日がやってきた。この日をどれほど待ち望んだことか。


「では戦闘訓練に進みましょうか。ところで訓練には何も関係ない質問なんですが、火、水、土、風の中で何が一番嫌いですか?」


 これはあれだ、わざと一番嫌いなものを聞き出してその訓練をする奴だ。僕が一番嫌い、というか怖いのはもちろん水だけれど、ここは一番好きな火を答え……


「では、水からいきましょうか。忘れたのですか?私はあなたの思考が読み取れるんですよ?」


 そうだった。失念していた。そもそも一番嫌いなのは?と質問を投げかけられた時点で僕の敗北は決まっていたのだった。


「では、今からゴーレムを生成しますので、魔法のみで倒せるようになりましたらまた来てください。食事は以前と同じように小屋の前に置いておきますから」


 そう言っていともたやすくゴーレムを生成する。ゴーレムといっても恐らく皆が想像するような、巨大で、鈍足で、タフなゴーレムではなく。微小、といっても僕の背丈ほどはあるのだけれど、俊敏で、それでいてありえないほどタフだった。


「このゴーレムは一時間ごとに完全に修復されますからね。頑張って一時間以内に倒し切ってください」


「……」


「あとこの場所は見て分かるように水の精霊に乏しく、土の精霊に豊富ですからね。いくらお師匠様の色を受け継ぎ、精霊との親和力が高まったとはいえ一朝一夕とはいきませんよ?」


 何処までもスパルタな師匠だった。


 普通の場所で普通のゴーレムを倒すことすら今の僕ではままならないというのに、水の精霊が乏しい場所で、師匠お手製の特製ゴーレムを倒すことなど不可能ではないか。


「ごちゃごちゃとうるさいですね。仮にも男なんですから、さっさと集中してください。ほら気を抜いてるとやられますよ?一応攻撃もするように作りましたからね」


 そう言い終わる前に僕はそのゴーレムから一発お見舞いされた。風穴が開くほどではないけれど、とてつもなく重い一撃だった。


「魔法が上達するのに加えて、格闘術まで身に着けられるんですからまさに一石二鳥ですね。さすが私です」


 さっき魔法以外で攻撃してはだめだと言っていたのに格闘術もくそもないだろうに。逃げるだけでは、避けるだけでは格闘術など身につかないだろう。


「また揚げ足を取るような真似を。師匠に向かって生意気ですね。無駄口たたく余裕があるようですから、もっとパワーアップさせましょう。性能二割増しです。では頑張ってください」


 何処までも理不尽な師匠だった。


 しかしながらこれ以上無駄口をたたいていては訓練もとい教育に支障が出てしまう。


 僕は意識を集中させ、水の精霊を探し出す。


 僕の努力もむなしく見つけた水の精霊は一匹だけ。


「久しぶりだね人間?もっとも僕からはずっと君は見えていたんだけどね」


 半年ぶりの再会だった。

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