第18話
「いやいや、面白いものを見せてもらったよ。半年というのは確かに長い時間だったけれど、おかげで退屈はしなかったよ」
もうこんなくらいで赤面する僕ではない。半年のランニングを経て強靭な体力だけでなく、強靭なメンタルも習得したのだ。
「そのメンタルが狂人のものとならないことを祈っておくよ。また発狂されてはかなわないからね」
大丈夫だ。もう僕はおいそれと発狂することはない。
「果たして本当にそうかな?じゃあ早速始めようか。まずは僕に触れてみて」
そう言われて僕は彼に手を伸ばす。
「あぁ……いいよ……上手だね……流石のパンツ盗みで鍛えた指遣いだ。お金がとれるよ」
止めてくれ。僕はなにも嫌らしい触り方をしているのではない。ただ彼の体をまさぐっているだけ……
おや?いやらしい触り方をしているのは確かなようだ。
しかしパンツ盗みなど変な妄想はやめてほしい。前にも言ったがケイトのパンツを盗んだことはない。少なくとも記憶の上では……
「ほら、やっぱり心当たりがあるんじゃないか」
いや、確かに心当たりがあると言われればあるような気も……
あれは確か八歳を迎えた日の夜だったか。僕は彼女の部屋に忍び込んで……
「そこまでにしてくれるかな?そろそろ攻撃が飛んでくるよ?」
もう少し早くいってほしかった。意識を現実に戻した時には僕は殴られていた。
なるほど確かに二割増しのパワーだった。僕の体は見事に宙に浮き、おまけに地面に叩きつけられた。
「ほらほら、変な想像してるからそうなるんだよ?戦闘に油断は禁物だと習わなかったのかい?」
その油断をもたらした本人が何という言い草だ。
「今の君と僕は感覚を共有しているからね。君の痛みは僕の痛みだ。忘れないように」
勝手すぎる。勝手に感覚を共有し、自分から油断を誘っておいて、本当に妖精というやつは勝手な生き物だ。
「何か感じないかい?僕の波動を感じるはずだよ?感覚を共有しているからね」
展開がやや急すぎないだろうか?僕は今しがた打ちのめされたばかりなのだ。
「早く」
そうせかされてはかなわない。僕は意識を集中させる。
確かに微弱ではあるけれど、僕の中を何かが巡っているように感じられた。
「そうそう、それが魔法の源だよ。それを徐々に大きくしていくんだ。ある程度大きく出来たら魔法が使えるようになるはずだよ」
ものは試しだ。僕は流れる水をイメージする。巡り巡りながらだんだんと勢いの増す渦を僕はイメージする。
するとどうだ。感じられる波動がだんだんと大きくなってくるではないか。僕は大きくなるその流れに耐えきれず放出してしまう。外に出たその波動は水の魔法となってゴーレムに襲い掛かった。
もっとも、その魔法は威力はもちろんスピードもまるでだめで、簡単に避けられてしまったのだけれど。
しかしながら治癒以外の魔法を使うことができた。この感覚が魔法の基本というやつなのだろうか?
「そうだね。それが魔法の基本だよ。それがたとえ火でも風でも土でもそれは変わらない。治癒の魔法は発動の仕方が少し違うけどね。それは君も知るところだろう」
そうである。治癒の魔法は波動を大きくするのではなく、自分のエネルギーを分け与える感じ。かたや、この水の魔法は大きくした波動を外に爆発させる感じだ。
しかし、この波動、エネルギーを大きくするというのは治癒の魔法でも使えそうな感じだ。
今まで一気にそのエネルギーを練ることなく使ってきたけれど、これを使えば少ないエネルギーでより強力な魔法を使えるのではないだろうか?
「ご名答。本来なら練成なくして百キロはともかく千キロランニングなんて達成できるはずないんだけどね。君はどうやらそのありえない体力でごり押しでクリアしたようだ」
そうだろうそうだろう。僕は体力には自信があるのだ。だてに二時間も全力疾走していない。
「決して褒めたわけじゃないんだけどね。しかし、君も変わってきたね。ここまで感情を表にするとは」
「一度死んで、枷が外れたんだよ。感情を殺していてもいいことはないみたいだからね」
「ふふふ。一度死んでフランクにもなったようだね。重畳、重畳。では目の前のゴーレムを倒すとしようか。これさえ倒せれば後の三属性は簡単だよ?基本は変わらないからね」
そうとなれば話は早い。早速ゴーレム討伐に勤しむとしよう。
そう威勢よく始めた僕だったけれど、まずゴーレムの攻撃をまともに受け流すことができるまで一ヶ月、まともに魔法を使えるようになるまで一ヶ月、その二つを同時にこなせるようになるまで三ヶ月、そしてまともに当たるようになるまでさらに三ヶ月。
そしてゴーレムを倒せるだけの威力と速度を出せるようになるまで四ヶ月と計一年の月日を経て、僕はようやくゴーレムを倒すことができたのだった。
無論、その過程で予想に反して格闘術を身に着け、より強靭な肉体と精神を得たのは言うまでもない。
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