第47話
「槍玉に上がったといっても私は槍も玉も持っていないけどね」
部屋に入って落ち着いた瞬間そんなド下ネタをぶち込んでぐらいには強烈な個性だった。十歳児にそんな発言をする人間が何処にいるというのか。
「え?君は中身は十歳児じゃないだろ?どこぞの探偵みたいに体は子供頭脳は大人なんだろう?」
果たして十六歳を大人と呼んでいいのかは物議を醸すところではある気がするが、この国では成人が十六歳なのだから別にツッコミどころはないだろう。仮に十六歳だとしてもその発言は問題がある気がするのだが。
というか問題はそこではない。なぜこの人がそれを知っているのかということだ。そのことはケイトとヴァーユ、それに師匠をおいて他にいないはずだ。
「何故校長先生がそれを?」
「そういえば自己紹介がまだだったね。私はヴェーダと言うんだ。気軽にヴェーダ先生とでも呼んでくれ。校長先生なんて呼び方は堅苦しいからね。私は形式ばったものは嫌いなんだ」
僕の話を聞いているのか?
「それは分かりました。ではヴェーダ先生、何故そのことを知っているのですか?少なくとも学校にそんなことを言った覚えはないのですが」
当たり前だ。そんな中二くさい発言ができるわけがない。少なくともそんなものはとうの昔に卒業している。いや、経験する余裕もなかったという方が正しいか。どちらにせよ僕は中二病を発症してはいない。
「そんなこと聞かなくても分かるだろうに。君は考えることをしないのかい?何でもかんでも教えてもらえると思ったら間違いだよ?」
確かにそれもそうか。師匠はまずないだろう。ここで師匠が出てくればいよいよ師匠を信じられなくなる。ではヴァーユはどうだろう?いや、それもない。見た感じではヴァーユは初対面なようだ。であるならば……
「もちろん君が師匠と呼ぶところのブルーハ様だよ。なんだい?鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして。それ以外に可能性はないだろうに」
結局教えてくれるのか。いや、確かにありがたい話ではあるのだから文句はないのだが……いやはやしかし、一番可能性は高かったのは師匠ではあったのだが、それはないと思っていた。信じていたかった。これ以上師匠への尊敬の念を失いたくはなかった。
「あの人はそういう人だ。諦めたほうが良いよ。君がこの学校に入学する前に師匠から知らせが来てね。いやなに僕もあの人から教えを受けたことがあるだけだ。言わば君の姉弟子という訳だね。それともなんだい?師匠の弟子は君だけとでも思っていたのかい?それは思い上がりも甚だしいというしかないね」
つくづく見透かしたようなことを言う人だ。先生の言う通り、確かに僕はそう思っていた。僕が特別な存在であるとそう思っていた。だってそうだろう?師匠は『千年ぶり』とか『長い時間』とか言うだけで僕のほかに弟子がいるなんてそんなことは微塵も感じさせてはいなかった。匂わせなんてことは一つもなかった。
「それなら一つあるよ。何を隠そう師匠へお金やら食べ物やらを渡しに行ってるのは私なんだ。そのことには君は気づいていたはずだけどね」
確かに気づいてはいたが、気づかされてはいたが、それは伏線にしては余りにも弱すぎるのではないだろうか?ここまでの繋がりの裏づけをするには役者不足が過ぎるんじゃなかろうか?てっきり作者の件で回収されたものだと思っていたが。
「確かに気づいてはいましたが、それはいささか無理やりが過ぎるのでは?」
「別にそんなことはないよ。何を隠そうその伏線は師匠のものなんだからね。同じ伏線でもそこら辺のモブが張るのと師匠が張るのとではその力は違うのさ。師匠の力は絶大だからねこれぐらいですむなんて思わないほうが良いよ?」
まだ伏線を回収するのか?伏線は一度回収すればそれで終わりという訳ではないのか?
「どうやら納得できたようだね。では授業に移ろうか。君にはとっておきの場所を用意しておいたからね」
師匠は国を亡ぼせるほどの力を僕は手に入れたと言ったがそれも嘘だったのだろうか?師匠の訓練を受けたということはこの人もかなりの力を持っていることになる。
「それは大丈夫だよ。私には君ほどの才能はなかったからね。いや、与えられなかったという方が正しいだろうね。要は器がそこまで大きくなかったのさ。だから君は心配しなくていい。私の十年より君の五年の方が何倍にも価値があるのは言うまでもないことさ。君が本気を出せばいくら私でもひとたまりもないよ」
そう言って先生は僕を手招くのであった。
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