第46話
さて授業の前準備も終わり、いよいよ本題に入るといったところで僕はまたも蚊帳の外にされた。各レベルにおいてグループ分けをし授業を行っていくということだったがその呼ばれた名前の中に僕の名前はなかった。
「僕はどのグループに入るのでしょうか?僕の記憶が正しければ名前を呼ばれていないのですが」
「あぁ、確かに名前は読んでいない。お前は特別授業だからな。校長直々の授業だ。お前は私では手に余るからな」
ほほう。特別授業と言われると悪い気はしないな。なんか主人公っぽいやつじゃないか。
しかしながら、他の生徒にはそうは映っていないようだった。僕が先生に止められたのをあまりにもお粗末な魔法を行使しようとしたからだと思っているようだ。
「やあやあ残念だね。初日から軽快に飛ばすもんだから魔法もさぞかし強力だと思っていたが、期待外れだよ。これからは大人しくしておくんだね」
先程中々にやるやつだとせっかく評価していたのにつくづく残念な奴だ。自分で自分の評価を落としてどうする。
「君に一番言われたくない言葉だねそれは。裏を返せばそれを言われるほどに残念な奴ということかな?」
てっきり凜が何か言い返すものだと思ったが、どうやら呆れ果てているようだ。ここまで塞がらない口は初めて見ると思うほどに口を開けて呆けていた。先生もだ。
その二人以外はその貝と同じことを思っていたようだが、もちろん僕も何も言い返す気はない。魔法に初めて触れたような人に言っても仕方がないだろう。もっとも後で悔い改めるようなことにはなるのだろうが。
僕は訓練場に挨拶をしてその場を後にする。もちろん校長のもとへ行くためだ。
笑い声こそなかったものの、憐れむような目線を送られながら僕はその場を後にした。このお返しはどうしてくれようかと画策しながら。いっそのこと貝そのものに変化させてもいいかもしれないな。
「まだ君にはそれはできないでしょ。破壊することしか知らないのによく言えたものだよ」
確かに半年前の僕はそうだったが、今の僕は違う。あの部屋にはよくわからない小説のほかにちゃんとした魔導書もあったのだ。彼女の言葉を信じるならこれ以上ない魔導書である。それを百冊どころではない数を読んだのだ。破壊以外の魔法はもちろん身についている。というかそもそも回復魔法は最初に学んでいるのだからその言葉は当たらない。
師匠は『私色に染まるのは良いことじゃあないです』とか言っていた気もするが僕は師匠色に染まっていた。
「まったく、せっかく別の道を用意してくれていたというのになんでそう楽な方へ行ってしまうかな」
しょうがない。人間というのはえてしてそういうものなのだ。同じ結果を得るのにより簡単な手段があればそれに飛びつくのは仕方がないだろう。僕もまたただの人間だったというだけのことだ。
「はぁ、これでは冗談で言ったあの人の再登場説も現実味を帯びてきたよ。調子に乗ってる君にお灸をすえる役が必要だからね。どうやら君は僕の手に余る存在だったようだ。これなら十人全員で君にあたるべきだったかな?」
十人全員で来られたらそれこそ僕の手に余る。現状三人でいっぱいいっぱいだというのにこれ以上、しかも問題児が増えてしまえばカオスそのものとなってしまう。少なくともこの話の主人公は僕だからな、断固拒否させてもらおう。
「じゃぁ、もっと主人公らしくしてよ。今の君はモブ以下の存在感だよ?ただ周りに翻弄されるだけの何も特徴のない一般人だよ?何なら凜の方が主人公っぽいよ?」
正論は時には人を傷つけることがあると学んだほうが良いなこの妖精は。ましてやそれを言われた本人が自覚しているような時はなおさらである。
もちろん僕はそれを自覚していた。でなければ全力を出して無理やり自分を主人公たらしめようなどとするわけがない。僕は無理やり個性を作り出そうとしていたのだ。
そう悲観していると不意に前の扉が開いた。どうやら気づかぬうちに校長室についてたようだ。
「ハーイ!校長ですよ?君はトリマーナ君だね?アグリー先生からは聞いてるよ?君の力は強大すぎるようだから私が槍玉に上がったという訳らしいね。忙しいけど君みたいな才能は大歓迎だよ!さあさあ入ってよ!ついさっきいい紅茶を仕入れたところなんだ!」
またもや僕の没個性に磨きがかかった瞬間だった。
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