第45話

 生徒がすべて教室に入り、だいぶ落ち着いた後も凜は動揺を隠しきれていなかった。


 今までばれていなかったことに多少なりともプライドを持っていたのだろう。そのプライドを砕かれてダメージを負ったのは見ただけで分かった。いい気味である。


「そろそろホームルームを始めるぞ。凛もさっさと落ち着け」


 と先生から死体蹴りさえくらっていた。ここまでくれば少しばかり可哀想になってくるがしょうがない。自分で蒔いた種なのだから。


 初等部では算術や歴史などの言わば一般教養のようなものを主に学んでいたが中等部では魔法の授業がほとんどだ。


 初めて魔法が使えるようになったこともあり今日の最初の授業は実戦形式の授業だった。習うより慣れろということなのだろうか。まぁ魔法の発動手段は人によって多少異なるようだからこれからの授業の効率を上げるという点でもいいのかもしれない。僕にとってはどうでもいい話だが。


 訓練場に行くと何やら的のような物が複数あった。


「ではこれより第一回の授業を始める。まだ魔法の行使についての授業は行っていないが、多少なりとも魔法が使えるだろう?この学校は攻撃魔法を得意とする色しか集めていないからな、よもやまだ魔法を使ったことがありませんなどと腑抜けたことを言うやつはいないだろな?」


 そういって生徒を見回す先生。僕を含め生徒全員は目を輝かせていた。初めての魔法を使った授業に興奮しているのだ。


「よろしい、では始めようか。遠慮はいらん全力でぶっ放すがいい。どのみちお前らではあの的を傷つけることすら叶わんだろうからな」


 一々、心を逆撫でする先生だ。いや、生徒の意識を高めるのに長けているとでも言うのだろうか?どうやら、先生としての能力は高い方らしい。


 そんな感じで勝手に分析していると、向こうの方から歓声が上がった。どうやらあの貝みたいな名前をしたやつが少しばかり強い魔法を行使したようだ。なるほど、口だけではないらしい。


「では、トリマーナ。次はお前の番だ」


 この流れだと、皆魔法を抑えたのにもかかわらず、規格外の魔法をぶっ放し『また何かやっちゃいました?』とか『おかしいって、弱すぎって意味だよな?』とかいう脳みその詰まっていないセリフを言うのだろうが、僕は違う。


 今まで全力を出せていないのだから鬱憤がたまっている。先生は遠慮はいらないと言っていたし、ここはその言葉に甘えてフルパワーでぶっ放すとしよう。この訓練場が壊れたところで僕の知ったことじゃない。


 今まで攻撃を避けながらだったので満足のいく魔力の練成はできなかったが、今回は違う。僕の集中力を遮るものは何一つないのだ。


 僕はこれでもかというほど魔力を練成し魔法を行使する。もちろん風魔法だ。僕が使える魔法の中でこの魔法は一番練度が高い。


 さあそれでは彼らの度肝を抜くとしよう。ここで圧倒的な力を見せつければ変な虫も寄ってこないだろう。


「イ~チ、ニーノ、サ」


「それぐらいにしておけ。この訓練場はおろか学校を壊されては敵わん。もっともお前が弁償してくれるなら話は別だがな」


 いよいよ僕の真の力をお披露目しようといったところで先生から制止をくらった。なんだなんだ皆して僕を主人公たらしめたくないとでも言うのか。早くしないとタイトル詐欺になってしまうではないか。いいじゃんいいじゃん、ここまで我慢したんだから少しぐらいは片鱗を見せてもいいじゃないか。


「片鱗どころか全体像を見せようとしてたじゃないか。先生は学校が壊されるって言ったけれど、あの調子だとこの街が真っ二つになってただろうね。上下半分になっていただろうね。どうやらこの先生は優秀なようだね。人を見る目があるよ」


 先生の株を上げても仕方がないだろう?僕の株を上げてくれよ、せっかくの力を見せびらかすチャンスだったというのにどうしてくれるんだ。


「それならもっと力を抑えるべきだったね。今の君なら1パーセントの力で十分この学校を破壊するだけの力があるんだよ?とはいっても当の本人がそれを自覚していないんじゃしょうがない。じゃあ学校が終わったら荒野にでも行ってみようか。そこなら1パーセントの力を出しても大丈夫だから。何なら10パーセントまでオッケーだよ?」


 それでも10パーセントか。僕は全力を出したいのだが。


「それは我慢しないとね。下手したら大量殺人鬼の汚名を着せられて国際指名手配されてしまうよ?それでもいいならどうぞご勝手に」


 それでもいいわけがないだろう。国際指名手配されている主人公が何処にいるというんだ。いや、どこぞの大怪盗はそうだったな。何ならダークヒーローとして生きていくのもありなんじゃないか?


「大量殺人をしている時点でそれは無理だと思うけどね」


 それもそうか。


 と、一段落したところで後ろから一際大きな歓声が上がった。先程の貝のものよりも百倍は大きな歓声だ。


「もうそれでいくんだね。いや、僕は構わないよ?」


 その歓声をもたらしたのは凛だった。


 一体いつになったら僕に主人公らしいことをさせてくれるのだろうか、乞うご期待。

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