第44話
二日目の登校は何事もなく無事に学校につくことができた。いよいよ今日から本格的な授業だからな、ストレスフリーでここまでたどり着けたのは有難い。
「少しは触れてあげようよ。さすがに彼が不憫になってくるよ、名前は覚えてないけど」
自分の方がよっぽど酷いことに気づいてないのか?スルーはすれども、少なくとも僕は名前は覚えている。
「じゃあ、教えてよ」
確か、貝みたいな名前をしていたな。そうそう、ムールという名前だったはずだ。そこそこに印象深い名前だったから覚えている。
「それは家名じゃなかったかな?確か自己紹介ではそれは後のほうで言っていたはずだよ?」
そうだったか?じゃあお手上げだ。どうやら自分も中々にひどい奴らしい。あんなに健気にアピールしてくれたというのに僕は薄情な奴だ。
とはいうものの、やはり興味のないことを覚えろというのは僕にとってどだい無理な話である。あんなに強烈な個性を発揮してくれたのに大変申し訳ない話ではあるけれど、今朝の一件で彼に興味が湧くことはなかった。
「やっぱり、君の方が酷いじゃないか。少なくとも僕は興味を持てたよ。そこに転がっている石ころよりかはね」
ふーむ。やはりどっちもどっちではなかろうか。道端の石ころよりかはって、それは興味がないと言っているようなものだろう。
「関心しないですね。本人のいないところで悪口ですか」
「何だよ凛。君だって散々家でケイトと僕の悪口合戦をしていただろうに、人のことは言えないんじゃないか?心は読めないけど行動は読めるんだからね?」
「それはいいじゃないですか、身内なんですし。それに悪口を言われるのは慣れっこでしょう?今更そんなこと気にしないでください」
あれ、何故凜がそんなことを知っているんだ?初等部で会ったことはないはずだが。
「そんなこと、ケイトに聞いたに決まってるじゃないですか。何も直接見聞きするだけが手段だと思わないでください」
なんだなんだ。ケイトは出会って初日の人に僕の悪口を言うのか?僕の知る限りではそんなことなかったはずだが。口はかなり堅かったはずだ。
「それはもう、凛、ケイトと呼び合う仲ですからね。何ならトリマーナ様よりも仲がよろしいんじゃないでしょうか?」
十年来の付き合いである僕よりも、出会って一日の少女を取るのか。厳しい試練の間中ずっと想っていた僕がバカみたいじゃないか。
「ええ、まさしくバカですよ?悔い改めてください」
こんなに口が悪い奴だったか?確かに僕は彼女についてほとんど知らないけれども、少なくとも最初の見てくれではまさしく淑女の印象を受けたのだが。
「まったく貴方は人を見る目もないんですか?私の猫かぶりすら見抜けないなんて節穴もいいとこですよ。と言いたいところですがここは飲み込んでおきましょう。今まで見抜けた人なんていなかったんですからね。そこまで言うのは酷というものでしょう」
言ってる言ってる。もう口に出している。いったいどんだけ胸の話を引きずれば気が済むのだろうか?昨夜は貴重な新必殺技を謝罪に消費するという主人公にあるまじき行いをさせておいてまだ何か僕に求めることがあるのだろうか?
「どうやら反省していないようですね。なんですか『させておいて』って。自分が蒔いた種だというのにまだ被害者面をするつもりですか?」
理不尽すぎる。失言一つでこうも責められるとは。僕はどこぞの国の政治家か。失言一つで辞めなければならない政治家か。さすがにそこまで言われる覚えはない。僕の今までの功績を鑑みるぐらいのことはしてもいいんじゃないか?
「確かにそれは聞き入れるべき金言ではありますが、果たして貴方はそう威張れるほどの功績を積んできましたか?少なくとも私はその功績による恩恵を受けていないのですが」
それもそうか。なら仕方がない。反論の余地はない。
「君のいうことはまさしく金言だ。だけどこれ以上はやめた方がいいだろう。周りを見てみなさい、他の生徒が僕たちを避けて教室に入ろうともしないじゃないか。君の猫かぶりはどうやら周知の事実となったようだしね。いや、ここは羞恥の事実とでも言っておこうか。君はまさしく羞恥を感じているようだしね」
僕の初めての反撃が成功した瞬間だった。僕はまったく彼女たちの言い分を聞き入れていないのだ。これくらいの反撃は許されるだろう。
衆目を集めることとなった凜は顔を真っ赤にして教室に入っていった。
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