第48話
手招きされたその先には荒野があった。
どこぞのメサを想像してくれればいい。一面地肌がむき出しになった不毛の土地だ。
どうやらここで特別授業が始まるようだ。僕の優先事項がさらに優先されたところで早速始めよう。
「ここは半径百キロメートルには人っ子一人いないからね。遠慮なく君の力を発揮して良いよ。君のたまりにたまった鬱憤を晴らすがいいさ。あまり魔力を溜めすぎてもいけないからね。適度に発散することが大事なのさ。これはストレスと同じだね。私の見立てではあと一日も我慢していれば魔力の貯蔵の限界が来て爆発四散していたようだからね。これ以上の悲惨な終わりはないだろうということで一つ手を打たせてもらったよ。爆発オチなんてギャグマンガじゃあるまいし」
何と僕はあと一日で死んでいたようだ。やけに軽く言ってくれるではないか。もっとも爆発したぐらいで死ぬ僕ではないのだが。
しかしながら、やけに饒舌な先生だ。今までに関わってきた人たちはそこまで口数が多い方じゃなかったからな。少しばかり押され気味である。
と思ったが一人饒舌なのがいた。ヴァーユがいる。そういえば先生に会ってから口を出さないな。あんなにおしゃべりな奴が全く出てこないなんて珍しいこともあるもんだ。
「そうそう、君の相棒君は私の部屋に留守番を頼んできたよ。仕切り役は二人とはいないからね、邪魔者は排除するに限る」
む。邪魔者を排除しただと?
「そんな顔をしないでくれるかな。私はただお菓子をエサに留守番を頼んだだけのことさ、何も物騒なことはしていない。実力行使ではあるけどね。アヴァ―ラに集まる銘菓を用立ちできるのは何も君だけとは思わないべきだよ。こう見えてもこの街唯一の魔法学校の校長だからね、権力はそこそこあるのさ」
もうそこには突っ込むまい。お菓子でヴァーユをつったことも知られているとなるとこれ以上のツッコミは不要だろう。
とはいっても彼女のお菓子好きは鬼気迫るものがあるな。自分の役柄が奪われるという危機が迫ってもなお、お菓子につられるとは。
「じゃあ納得がいったようだし早速始めようか。かくいう私も久しく本気を出せていないのでね。君には劣るけれども人に劣るわけではない。無論君の父上殿にもね?」
どうやら僕の素性も割れているようだ。というか最強ではなかったのか?真の最強とはいかないまでも五本の指に入るとか豪語していた気がするが。
「何を隠そう君の戸籍詐称に私も加担したんだからそれを知ってるのは当たり前だ。それと父上殿の名誉のために言っておくけれど、その言葉に嘘はないよ。表向きはそれで正しい。裏では私のような力を持つものもいるのさ。ただ表に出ないだけでね。いうだろう?能ある鷹は爪を隠すって。それと同じさ」
そうなのか。これ以上父上に呆れずにすんだ。
「正確に言うと、父上殿は千位にも入らないだろうね。この国には陰の実力者というのがまあまあいるんだよ。影の助力によってこの国は成り立っているのさ。そうでなければあんな雑魚が最強の国などいの一番に食い物にされるだろうさ」
やはり父上は残念な人だったか。いやまあ僕の一睨みでブルっていたから、この国に絶望しないで済んだのだからむしろ良かったというべきか。父上の株はもはやゼロに等しくなってしまったが。
「父上のことはまぁいいです。もはや父上ではありませんからね。では授業をお願いします。時間は有限ですから」
「そういえばそうだったね。失念していたよ、これは失敬。しかし、君の言葉には賛成だ早速始めよう。もっともこの世界には時間という概念はないんだけどね。それでも心は年を取るだろうさ」
そういって授業が始まった。もちろん先生との格闘戦から始まった。やっぱり初めは拳で語り合わねばな。
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