第19話
水の魔法を習得した僕に課されたのは火の魔法の訓練だった。
「待ちくたびれましたよ。一年もかかるとは情けないですね」
と嫌みを言われるのはもうなっれこになっていた。
「それで次の魔法は何ですか?」
「そんなもの見て分かるでしょう?周りをご覧なさいな」
そう言われて周りを見渡すと。なるほど、見れば分かろうものだった。
以前とは打って変わって水に覆われた土地、いや正しく海に変わっていた。おまけに何故か火山までついてきている。ハッピーセットならぬアンハッピーセットといったところだろうか。
「そんなどや顔しないでください。大して上手いこと言っていないんですから。逆にこっちが恥ずかしくなります」
結構上手いことを言ったつもりだったが、師匠には不発に終わったようだ。僕のギャグ線には定評があったはずなのに。
「勝手に記憶を捏造するのはやめてください。そもそもあなたのそのサムーイギャグを披露する人なんていなかったでしょうに」
そうだった、そうだった。僕はギャグを披露するような友達なんて一人もいないのだった。まったく、悲しい現実を思い出させるのはやめてほしい。せっかく一年も頑張ったのだから少しくらい合わせてくれても良いだろうに。
時として正論はなによりも人を傷づけることがあるのだから、むやみやたらに正論を振りかざすのはやめてほしい。もっとも僕には正論アタックは効かないのだけれど。
「ならいいではありませんか。そもそも半年ほどで終わるはずの訓練を一年もかけたのですから合わせないのは当たり前でしょう。おおかたあの子と談笑したからだとは思いますが」
「ギクッ」
確かに僕はその通りだった。半年ぶりの再会についつい話し込んでしまったのだった。腹を割って話せることについつい喜んでしまい、訓練に倍の時間をかけてしまったのだった。
「なのでこれからの訓練は倍きついものにしてあげましょう。どうやらあなたもそれを望んでいるようですからね」
僕はこれでもかと首を振る。
半年かかる訓練を倍だと?そしたら訓練を終えるのに二年もかかってしまうではないか。残りの三つの訓練をこなせば六年もたってしまう。僕の花のセブンティーンはどうしてくれるのか。
「単純に会話をやめて取り組めばいいだけではないですか。バカは死ななきゃ治らないとはよく言いますが、死んでバカになるというのは初めての経験ですね。ならばもう一度殺せば治るのでは?」
そう言って素振りを始める師匠。本当に殺す気ならばとっくに僕は死んでいる。それが起こっていないということは師匠が本気で言っているわけではないということだ。
こうなれば僕がとる手段は一つ。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
「あぁもうわかりましたよ。器用に七回も謝らないでください。ラッキーセブンを狙わないでください。もう許しますから」
僕の奥義セブンアポロジーはクリティカルヒットしたようだった。この日のために何度練習したことか。この技を完成させるのに僕は一か月の時を費やしたのだった。
「もうやめましょうか。話の知的レベルが暴落してます。誰がとは言いませんがブラウザバックする人も出てきますよ?」
そんなメタ発言の方がよっぽど人を減らすと思うのだが……
まぁ、話の知的レベルが落ちてきているのは僕も感じるところだからここら辺にしておこう。さっさと次に進まないと飽きが来るだろうから。
「あなたもメタ発言しているじゃないですか……まあいいです、さっそく次の訓練を始めましょう。要領は前回と同じです。ただ水魔法が火魔法に変わっただけです。ただ今回は時間制限を設けましょう。一年です。一年を越えたらもれなく罰ゲームですからお愉しみに」
普通そこ「覚悟しておいてください」とかではなかろうか。しかもよりによって「お愉しみに」である。愉悦を感じてしまっているではないか。
「ごちゃごちゃうるさいですね。はいスタート!」
そういうと師匠は指パッチンをする。やけに訓練の内容に比べれば軽い演出だった。
出てきた相手は確かに軽かったけれど、重くはあった。
「やあやあ、久しぶりだね」
「僕は数時間ぶりだけどね」
「他の僕たちは実に一年と半年ぶりだよ」
「今度は手加減はしないからね?」
「お菓子が待っているんださっそく始めさせてもらうよ?」
仲間になってくれるはずの精霊たちは今度は敵に回っていた。
しかもさっきまで一緒に戦ってくれたはずの彼も敵側に回っている。ひどい裏切りを見た気がした。
それを示すかのように、いくら意識を集中させても火の精霊は感じられない。
火の精霊がいるとすればそれは何故か存在している火山以外にはないだろう。
師匠は大ウソつきだった。要領は同じだと言っていたのに、スイミングを混ぜてきた。
ダイビングとダイニングをかけた僕への当てつけだろうか。
今度はスイミングでダイニングしろと。そういいたいのかもしれない。
しかし今回の場合はそこまでふざけられるほどの余裕が僕にはない。
ただもがけばよかったあの時とは状況が異なるからだ。
今回の僕はさながらトライアスロン選手がごとく僕は火山の麓まで泳ぎ、火山まで走り、登らなければならないからだ。しかも彼たちの攻撃に対処しながら。
死のトライアスロンは幕を開けた。
彼たちの号砲によって。
もちろん弾は込められていた。彼らお手製の水の弾が。
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