第28話
しばらく東に進んだところで、僕はあることに気づいた。
街道にあたったところでその道が元の街へつながっているかは定かではないということに。東にもとの街があるのは事実だが、東に進んだところで戻れる保証はない。
一番確実なのはその道を通る行商人やらに聞くことだが、お金もなく服もボロボロな僕に教えてくれるような人はいないだろう。無視されるのが関の山だ。
色々と思想を巡らしているうちに、街道と思われる道についた。
とりあえずはここで誰かが来るのを待とう。気が引けるが会話を盗み聞きして目的地を聞き出そう。同じ目的地だったらその方向に進めばたどり着くという寸法だ。
小一時間待っているとようやく馬車一行がやってきた。なかなかの大きな商団なようで馬車が十台ほどみられる。おまけに護衛も何人かいるようだ。
そうそう、以前言った冒険者というのはこうして旅人などの道中を守る護衛を仕事にする人も多いのだ。話に聞く限りでは中々に実入りがいいらしい。危険も少なく、払いもいいのだとか。
まぁ、それなりに名を上げないと護衛を頼まれることもないのだが。そこまでになるのに大きな危険が伴うのもまた事実だ。だからこそ払いがいいという側面もある。
そうこうしているうちに会話が聞き取れる距離まで近づいてきた。では会話を傍受しようではないか。
なんて大袈裟に言ってみたけれど、ただ耳を澄ませるだけだ。
「いやぁ、このバラン街道は魔獣が多く生息していると聞いていましたが、意外に出てこないものですな」
「魔獣が多く生息しているというのは事実ですが、今回は大人数での移動ですからね。魔獣というものは警戒心が強いので出てこないんですよ」
「そういうものですか」
「ええ、そういうものです」
そう会話するのは一団のリーダーらしき人物と、護衛のリーダーらしき人物の二人だ。
どうやら魔獣が出ないことをいいことに会話に興じているらしい。
まぁ、皮肉な感じで言ったけれど、決して羨んでいるわけではない。楽しそうに会話している彼らを羨んでいるわけではない。会話相手が欲しいという訳でもない。ただ彼らの状況を冷静に、第三者的視点から、俯瞰的に評しただけのことだ。
しかしながら、『バラン街道』と言ったな。その街道は僕の目的地、つまるところのアヴァ―ラへ続く道のはずだ。
おっと、図らずもここで僕の元居た街の名前を紹介することになってしまった。まぁ、名前ぐらいは紹介しておくべきだろう、次なる物語の場所になりうる可能性があるのだから。
それはともかく、僕はふたたび会話に耳を傾ける。彼らの目的地が果てしてアヴァ―ラなのかを確かめねばならない。
「魔獣が出ないことは願ってもないことですが、それはそれで暇なものですな。アヴァ―ラまであと一週間ほどですか。いやはや実に長い道のりですな」
「そんなこと言わないでくださいよ。魔獣が出てくるなんて御免ですからね」
「はっはっは、いやいや失礼。しかしながら、ここまで暇だと冗談も言いたくなるというものですよ。ですが、魔獣に襲われるのはごめんなので、この話題には触れないでおきましょうか。口は災いのもとと言いますからな」
「お願いしますよ?ほんと」
ビンゴだ。彼らが目指す場所はアヴァ―ラで間違いないようだ。
しかしながら、あの冒険者風の男はやけに丁寧な物腰だ。僕が知っている冒険者というのは皆、乱雑で粗暴なものばかりだったけれど、護衛するまでとなると言葉遣いも変わってくるものだろうか?立場は人を変えるというものか。良い方向に変わっているようで何よりだ。
なんて上から目線でお送りしたけれど、僕は先を急ごうか。彼らが魔獣に襲われるのを虎視眈々と待ちわびて、助っ人参上して取り入るといった非人道的で極めて怪しまれるであろう行為を働くよりかは、先に行く方が良いだろう。
まぁ、たとえ襲われたとしても彼らで十分対応できるような魔獣しか出ないだろうから、わざわざ僕が見張る必要もないというのもある。
とりあえずは彼らの言葉を信じ、僕は旅路を急ぐのだった。
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