第二章 帰還編
第27話
気が付くと僕は魔法陣の上にいた。少しばかり視線が高くなったような気がする。
「それはまさしく気のせいというものだよ。後で鏡でも見るといいさ」
そうツッコミを入れたのはもちろん五年という期間を一緒に戦った。あの妖精だった。
「まぁ、正確に言うと四年しか戦っていないし、味方として一緒に戦ったのはもっと短いけどね」
そんな小さなことはどうでもいい。一緒に戦ったということが重要なのだ。しかし、その一匹以外に妖精は見当たらない。一体どうしたのだろうか?
「あいつらはあの人からもらったお菓子に夢中だよ」
ほう。なんとも薄情な奴等だ。それなら、目の前にいる妖精はいったいなぜここにいるのだろうか?まさかジャンケンで負けたとか……
「まさしくそうだよ。この森から出るのに案内が必要だろうということで、仕方なく僕が来てやったのさ。感謝してほしいね」
少しばかり理由に文句は言いたくなるが、ひとまずは感謝するべきだろう。森を抜けるのは簡単だが、元居た街の方角はどうあがいても知る由もない。
「道案内といってもただ方角を教えるだけだけどね。お菓子が優先だよ」
感謝の気持ちも冷めるというものだ。どこまでも自分の欲望に忠実な奴等だ。
「大体の方向を教えるだけだからね、感謝されるようなことでもないよ。まあとりあえずは東に向かうといいさ、君は東から来たようだからね。街道に当たればそこからは一本道だからまず迷うことはないだろう。東に行けば当たるはずだよ」
そういえば僕は東から来たのだった。もっとも魔獣に追いかけられてからは方向なんぞ気にしてはいなかったのだけれど。
「それじゃあ、僕はもう行くよ。お菓子が待っているからね」
「あぁ、その前に一つ。ありがとう。君たちには色々思うところが無くはないけれど、とにかく感謝しているんだ。何もあげるものは持ってないけれど、とりあえず感謝だけは伝えておくよ」
「フーン。感謝しているなら今度来た時にでもお菓子を持ってきてくれよ。とびっきりエネルギーに溢れたやつをさ」
「もちろん約束しよう。もっともここに再びやってくる確証はないけれどね」
「まさに、まさに。あの人もそれを望んではいないようだしね。じゃあバイバイだよ」
そう言ってその妖精は姿を消してしまった。てっきり十匹皆姿を見せるだろうと思っていたが、どうやらお菓子の魅力には勝てないらしい。そんなお菓子に興味は湧くけれど、どうしたって知りようもない。僕はあの街へ戻ることしかできないのだ。
もっとも師匠に言わせれば、それも自由ということなのだろうけど、ひとまずは師匠のアドバイスに従ってあの街へ戻るとしよう。
果てして五年も経った今もなお、ケイトは僕を待ち続けているのだろうか?
僕は思い切り空に飛び出し、東に飛んでいく。
久方ぶりの陽の光を浴びて僕は言い知れない高揚感に包まれる。
たった今、僕の、トリマーナとしての新しい僕の物語が始まったのだと。
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