目に見える死

「いくらでも言い訳してくれていいんだよ」


 そういって愛らしい容姿をした子供は笑う。子供らしからぬ慈愛に満ちた表情に俺はただ居心地が悪くなる。俺の反応を見た子供は心底楽しそうに笑った。


「俺が殺したわけじゃないかな? それとも直接的には関わってないとか? お前が勝手に死んだだけで俺には関係ないとかいっちゃう?」


 楽しげに子供は子供らしからぬ言葉を口にする。弾んだ子供の声を聞けば聞くほど、俺の心は重くなる。震えそうになる体を押さえつけてなんとか言葉を絞り出した。


「言い訳する気はない」

「えーしないの? つまんないな」


 子供は肩を落とした。オーバーなリアクションはわざとらしくて、妙な落ちつきは子供らしからぬ。しかし見た目はどう見ても子供で、パタパタと机をすり抜ける足を揺らす姿も子供にしか見えなかった。


「君がみっともなく言い訳する姿を見れると思ったのに残念だなー。言い訳する気もないなら何しに来たの? 今更謝罪なんてやめてよね。気持ち悪いし。されたところで僕が生き返ることなんてないんだし」


 机の上から子供は浮き上がる。傷もなければ血も出ていない。それでも子供の肉体はたしかに死んでいる。

 俺が殺したわけではない。けれど、死ぬ原因を作ったのは俺。言い訳すらできないような仕打ちをしたのも俺。


「あーいいなあ。その顔。苦しい、辛いって顔。それ見れただけで死んで良かったかも」


 黙りこくる俺を見下ろして子供はとても嬉しそうに笑う。生前は病弱だったために自由に動かなかった体でクルクルと回り、唯一愛した人間にそっくりな顔で歪んだ笑みを浮かべる。


「安心して。君が死にたくなるまで側にいてあげる。だから言い訳したくなったらいつでも言って。最後までちゃあんと聞いてあげるから」


 嬉々として話す子供は俺の心が死に、自ら命を断つのを待っている。

 それがわかっていても逃げる選択肢など俺にはなかった。

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