来年もよろしく

 初詣いこう。とメールが届いたのは実家でゴロゴロしていたときだった。場所はちょうど実家と学校の中間地点。いけなくもない距離。

 年末年始は地元に戻る。そう伝えたときにどの辺? とやけに具体的に場所を聞かれたけれど、その時にはすでに初詣にいくという計画が練られていたらしい。


 その時いったらいいのに。と私は苦笑いを浮かべた。友人を初詣に誘うだけの話なのに。そう思ったところで、彰からすればなかなかハードルが高いことなのかもしれないと思い直す。


 そもそも彰は今まで友人と初詣にいったことがあったのか。まず私や香奈とであう前、友人といえる人がいたのか。

 そんなことを考えてしまって心がざわめく。すぐさま行く。とメールを返すと、隣の家にいる香奈と話すために部屋を出た。メールでやりとりするより直接話した方が早い。


 彰に指定された場所はなかなか賑わっていた。それなりに有名な神社らしく行き交う人が多い。それでも目立つ彰はすぐに見つけられた。その腕に抱えられた比呂君も、移動手段として使われた百合先生もとにかく目立つ。その三人の空間だけ綺麗に人混みがなく、思わず香奈と顔を見合わせて笑ってしまった。


 電車で行くと両親には告げたのだが、やけに乗り気で車を出してくれた。離れた学校に通う、一人娘の友達となれば親として気になったのかもしれない。車内でどんな子なの? と聞かれたときは返答に困った。とりあえず、見た目だけなら完璧と答えておいた。


 両親は彰の美少女っぷりに驚いていた。男だときいたけど? と何度か確認の視線を向けられて、香奈と二人で苦笑する。正真正銘の男である。

 次に付き添いで来た百合の強面っぷりにもビビっていた。数学の先生だと説明すると本当に? と何度も何度も視線で訴えかけられ、仕方ないので体育祭で他の先生に混じって走っている写真を見せてやっと納得した。

 かわりに百合からはなんでそんな写真がある。という顔をされたが、一見ヤクザの強面教師が真面目にリレーしている姿は面白さしかないだろう。というのは口に出さずにごまかした。


 お参りしてくるね。という彰の声に百合先生が軽く手をふる。百合先生はうちの両親と話して待っているつもりらしい。ここまで来たのにお参りしないのかと不思議だったが、百合先生も見える人だから色々あるのだろう。うちの両親は百合先生が気になって仕方ないらしい。


「ここの神様は優しい人だから、気に入られたら見守ってくれるよ」


 歩いていると当然のごとく、神様の人柄に触れられて私と香奈は顔を見合わせた。彰だし、見えても知ってても不思議じゃないが、日常会話に混ぜられるとやはり驚く。


「子狐様みたいに守ってくれるの?」

「子狐様ほど身近ではないから、ちょっと悪いことがあったとき、流れを多少変えてくれるくらいかな」


 あくまで気に入られたらの話だけど。そういいながら彰は比呂君を抱きかかえてまっすぐ進んでいく。


「願い事をいうんじゃなくて、お初にお目にかかります。自分はこういうものです。って自己紹介するんだよ」

「自己紹介……」


 神様に自己紹介。なんだか不思議な話だけど、彰がそうしろというのなら、それが正しいのだろう。


「神様に引き合わせるためにわざわざ呼んでくれたの?」

「……去年は色々とお世話になったからね」


 香奈の言葉に少し間をおいてから彰は答えた。


「ナナちゃんとカナちゃんも、面倒ごとに首突っ込むタイプだから、少しぐらい加護もらっとかないととんでもない厄引き寄せそうだし」

「あんたに言われたくはないかなー」


 生まれて瞬間から厄背負ってる人間が何をいう。そう思ったところでその元凶がいないことに気づく。だが考えてみればトキアもリンさんも神社や寺とは相性が悪そうだ。


「二人に何かあったら目覚め悪いからさ保険」

「私たちも彰君に何かあったら悲しいよ」


 香奈の言葉に彰は驚いた顔をした。固まった兄をみて比呂君が不思議そうな顔をする。


「友達だからね」

 私がニヤニヤ笑いながらいうと彰は眉を寄せ、ため息をついた。


「初めて会ったときはなんて無謀なバカだろうと思ったけど」

「私も嫌味で性格悪いと思ったからおあいこだよ」


 わざとふんぞり返ると彰は意地の悪い笑みを浮かべる。でも初めてあった時みたいな冷たい感じじゃない。ふざけて遊んでるだけの柔らかい笑みだ。

 こんな表情を見られる日がくるなんて、初めて会ったときは思いもしなかった。去年の今頃、地元で年を越した私は想像すらしていなかった。

 彰と出会っていろんなことが変わった。それが最初は怖かったけど、今は楽しい。そう思う。


「今年もよろしくね、彰君」

「こちらこそ」

「来年もまた来ようね」


 早くも次の約束を取り付ける香奈に彰はきょとんとした顔をして、それから吹き出した。


「そうだね。来年もまた来よう」


 去年の私にいってあげたい。日常が壊れても、意外とそれは心地よいって。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る