言い訳は使わない
言い訳をさせてもらうとこんなことになるとは思わなかった。ほんの出来心と好奇心だったのだ。
そう心の中でいくら言い訳しようと現実は変わらない。カリムの成人男性にしては小柄な体はがっしりとラルスに抱きしめられていた。
カリムの肩に額をくっつけて上機嫌に笑っているラルスは完全に酔っ払っている。日頃はしまっている耳としっぽは制御を失い、しっぽは先程からうるさいくらいにブンブンと振られていた。
楽しそうなのは何よりだが身動きが取れない。ワーウルフは人間より力が強い種族だ。
嗅覚が鋭いワーウルフは味というよりも匂いで酔うと聞き、興味本位で酒を買ってきたのが間違いだった。ワーウルフの中でも嗅覚が鋭いラルスは匂いをかいだ時点で怪しくなり、三杯目にして完全に理性が溶けた。そこからはカリムを抱き枕よろしく抱えて離さない。成人男性としては複雑だ。
「ラルス……そろそろ寝ないか」
「やだぁー」
「……水飲まないか?」
「やぁだー!」
なにが楽しいのかケラケラ笑い続けるラルスは頭をカリムの体に擦り付けてくる。くすぐったい。
「ラルス、ちょっと離してくれ」
「やーだー」
一層力を込めて抱きつかれ、お腹の中身が出そうになった。
「かりむ、ちっちゃい」
「小さくない」
「うまそう」
「食べるなよ」
ワーウルフという種は肉食である。そして好いた相手ほど美味しそうに見えるという特徴がある。
興味本位で買ったお酒で理性の溶けたパートナーに食い殺される。笑えない最期にカリムの顔が引きつった。
「かりむ、しんじゃうから、たべない」
舌足らずな口調でそういったのを最後に背後から寝息が聞こえてきた。振り返れば気持ちよさそうな寝顔が見える。
死の危機から脱したことに安堵したと同時に酔っても食欲を抑え込むラルスに愛おしさを覚えた。
「お前は酔ったという言い訳は使わないんだな」
頭を撫でるとラルスは満足そうな笑みを浮かべた。
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