愛しのバカは美味しそう
ふとした瞬間、美味しそうだな。そう思う。
男にしては細い体は童顔のわりには引き締まり、無駄な肉がない。だからきっと食べごたえはない。大きくて丸いやつ。そういうやつの方がお腹いっぱいに食べられる。カリムは骨と皮だけで食べるのも大変そうだ。それなのにやけに美味しそうな匂いがして、あー旨そうだな。と目でおってしまう瞬間がある。
肉食種のワーウルフは好きな相手ほど美味しそうに見えるのだという。番は美味しそうだし、親友も美味しそう。食べちゃいたいほど好き。というのは比喩ではなく事実なのだ。
これはワーウルフに限ったことではなく、竜種であるヴィオもクレアのことを美味しそうで困るとこぼしていたし、ヴァンパイアのエミリアーノはこぼすどころかつまみ食いする。そういうときヴァンパイアはいいなと思う。血は飲みすぎなければなくならない。だからこそ量の調整が難しいとぼやいていたけどラルスからしてみたら贅沢な悩みだ。
あー美味しそうだなーとカリムをみて今日も思う。男なのにほっぺたぷにぷにしてるし、首筋もきれいだ。美味しそうな匂いが漂ってきて、自然と口のなかに唾液がたまる。
けれど、食べたらなくなってしまう。ゾンビみたいに生えてこない。カリムの手足は替えがきかないし、カリムの命も一つだけ。食べたら死んでいなくなってしまう。それは想像しただけでも死んでしまいたくなるほど悲しい。だからどんなに美味しそうでも我慢しないといけない。
もしかしたら食べちゃいけないと思うから、よけい美味しそうに見えるのかもしれない。食べちゃいたいほど大好きなのに、いなくなったら悲しいから食べられない。そうした葛藤がますますカリムを美味しそうにみせて、忍耐力を試してくるのでは。そんなことをラルスは最近かんがえている。
それなのにカリムときたら、食べたいなら腕の一本くらいいいぞ。と平気でいうのである。こちらがどれほど我慢しているか知らずに、嬉しそうに笑うのである。なんて酷いやつだとラルスは思う。
ワーウルフは好きな相手ほど美味しそうに見える。愛情と食欲が直結している厄介な種族だ。それをカリムは知っているから、美味しそうだというラルスをみて嬉しそうな顔をする。
食べたいといわれているのに。腕の一本ですまないかもしれないのに。油断したら頭からバリバリ食べられて死んでしまうかもしれないのに、そんなことするはずがないと信じきっているのである。
カリムは頭がいいのにバカだ。そんなこと俺以外にいったら本当に食べられてしまうんだからな。このバカ。
ラルスはそう思いながらカリムの首筋に噛みついた。強めに噛んだからちょっと血の味がする。やっぱりそれは美味しくて、今まで食べてきた何よりも美味しくて、俺はヴァンパイアじゃないのになと思いながらラルスはペロリとカリムの血をなめた。
カリムは痛いと文句をいったけど、やっぱり緩みきっている。首だぞ。急所だぞ。血が出てるんだぞ。
あーやっぱり大馬鹿者だ。警戒心が少しもない。
しかしそのバカが食べたくなるほど好きで、食べられないほど愛してるのだから自分の方がバカかもしれない。
そう思ったら腹が立ってきたので、ラルスはもう一度カリムに噛みついた。
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