高校生の日常

「本屋よっていい?」

 唐突な悠里の言葉に夷月は驚いた。隣を歩いていたナツキも意外そうな顔をしている。


「悠里が本屋なんて珍しい」

「欲しい雑誌があってさ。そんなに時間かからないから」


 そういいながらこちらの返事も聞かずに悠里は本屋の中に入っていった。疑問形ではあったが本人の中では確定事項だったらしい。夷月とナツキなら待っててくれるだろうという信頼が見えれば無下にも出来ない。

 悠里が出てくるまで外で待っているのも暇なので本屋に入る。ナツキもあとに続いたから気持ちは同じようだ。といっても、一緒に見て回る気はお互いになく、入るなり左右に別れた。この適度にドライな感じが気に入っている。


 買い物を終えた夷月が本屋を出るとナツキと悠里が外で待っていた。二人とも本屋のロゴが入った紙袋を持っているから目当てのものは買えたらしい。


「なに買ったの?」

「スポーツ雑誌」


 悠里が紙袋から中身を見せてくれる。言われてみれば悠里の部屋の本棚に並んでいた。運動部ではない夷月からすれば存在すら知らない雑誌なので好奇心が湧く。あとでちょっと見せてもらおう。


「ナツキちゃんは?」

「写真集」

 ナツキも紙袋から買ったものをだして表紙を見せてくれる。きれいな風景写真にも撮影者の名前にも見覚えがない。


「そういう夷月は?」

「見てみて! 掘り出し物!」

 そういって紙袋から中身を取り出す。堂々と掲げてみせると、興味深げに見つめていた二人はそろって眉を寄せた。


「絵本?」

「あんた高校生よね?」

「高校生が絵本買っちゃいけませんって法律はありません」

 夷月の主張に二人は微妙な顔をした。


「趣味合わないわね」

「ほんとにそれ」


 三人でつるむようになってそれなりの時間がたったが、趣味は合わない。しかし気づけば一緒にいる。夷月からするとそちらの方が特別に思えて自然と笑みが浮かぶ。


「これからも末永くよろしく」

「急にどうした」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る