七海と双子の話
手をつないで走り抜ける子供たちを見て、彰の動きが止まった。
遠目でみてもよく分かる瓜二つの容姿。双子だと一目でわかる少年たちは楽し気に笑いながら、遠ざかっていく。その背を彰はじっと見つめて、眩しそうに目を細めた。
「彰君、どうかした?」
何を考えているのかは何となくわかるのだが、あえて問いかける。彰はそれにしばらく答えず、やがて何でもないと笑みを浮かべた。
嘘だろう。そう思ったが、声に出したところ目の前の頑固者が素直に認めないことは今までの付き合いで分かっている。
「双子かな。可愛かったね」
けれど、そのまま黙っているほど私も優しくはないので、わざと話をふる。それに対して彰は微妙な顔をしたが、そうだね。と私の言葉に返事をした。
「彰君もあんな時代があったの?」
「……ナナちゃんさー、そこはあえて触れないところじゃないの?」
顔をしかめた彰に対して、私は空気よめないからさー。と適当な返事を返す。それに対して彰は不満そうな顔をして、性格が悪くなったとぼやいた。誰の影響かと聞かれれば、間違いなく彰の影響なので私はその言葉を聞き流す。
「弟と一緒に遊んだことあったの」
さらに突っ込んで聞くと彰の表情が分かりやすく険しくなった。初めて会った頃ならひるんでしまっただろうが、あれから数年の付き合いだ。すっかり私は慣れてしまった。それにこれは本気で怒っているわけではなく、言いにくいから誤魔化そうとしているのだと私は知っている。
「……たまにね」
彰は子供たちが走り去っていった方を見つめてつぶやく。昔、まだトキアが生きていた頃を思い出すように。
彰にとっては思い出になった。けれど今もお嬢際悪く現世にとどまっている彰の背後霊を見つめると、いつになく神妙な顔で彰と同じく遠くを見つめていた。そこには懐かしさと、かすかな羨望が見える。
「今にして思えば、もっと遊んでおけばよかったな……」
トキアがポツリと呟いた。いつになく弱々しい声は未だに遠くを見つめる彰には届かない。それが無性に悲しくなったが、私は彰に何も告げることは出来ない。
「追い返さないで、もっと遊んでおけばよかったな」
ふと、つぶやかれた言葉にトキアが目を見開く。私も思わず彰を凝視した。彰は私の視線に気づくと、何? と不快な顔をする。トキアの声が聞こえたわけではない。彰にトキアの声は聞こえない。それなのに同じことを口にする。たしかに彼らは双子であり、繋がっている。生死が二人をわけたとしても、トキアの姿が彰にみえなくとも。
「彰君はさ、今でも弟君のこと好き?」
私の問いに彰は何をいっているの。という顔をした。
「弟のこと嫌いな兄なんているわけないでしょ」
何の迷いもなく断言された言葉に私は何を言えばいいのか分からなかった。そんな私の視界には、泣きそうな顔をするトキアがうつっていたから尚更。
もー行くよ。と彰が歩き出す。私は遅れてそれに続きながら振り返った。空中で静止したトキアが顔を歪ませたままそこにいる。
「よかったね」
小声で声をかけると、トキアがギロリと私をにらんだ。けれどその顔が未だに泣くのを必死にこらえようとしていたから、私は声をあげずに笑った。
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