とある男の末路
夜鳴市では十二時以降外に出てはいけない。
なぜかと理由を聞けば夜鳴市の伝承が由来らしい。なんでも大昔に退治された鬼が自分を退治した人間を呪い、夜になると怨念となって町中を徘徊するのだという。
そんな与太話を町ぐるみで信じていると聞いて笑ってしまう。大真面目に「絶対に外に出るなよ」という先輩を見て笑いを堪えるのに苦労した。
やるなと言われたらやってしまいたくなるのが人間というもので、俺は先輩の忠告を無視して外に出た。
夜の町は別世界。明るいのが当たり前で育った都会育ちの俺には暗く静かな夜は新鮮だった。世界が俺のために存在しているような高揚感に自然と足が軽くなる。
澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込んでそこら辺をぶらりと散歩することにした。鼻歌交じりに歩いていると足下をなにかが通り抜けた。猫かと思って視線を向けてもそこには何もいない。気のせいかと歩き出すと今度は足に何かがまとわりついてくる感覚がした。けれど足下を見てもやはり何もいない。
疑問に思いながら足を進める。だんだんと足が重たくなってきて、なぜか息が上がってきた。これはダメだとホテルに引きかえそうとしたが急に足に痛みが走る。とっさにしゃがみ込み足を押さえると、今度は背中に衝撃。気づけばコンクリートに倒れていて、なにかが体の上を這いずっているような感覚がした。体が動かず異様に寒い。助けを呼ぼうとするが声も出ない。
怨念という言葉が頭に浮かんでバカなと頭を振る。そんなものが存在するはずがない。先輩を呼ぼうとポケットに入ったスマートフォンに手を伸ばした俺は気配を感じて前を向いた。暗闇の中に赤いものと白いものが見える。それが唾液にぬめる舌と綺麗に並んだ白い牙だと気づいた時にはもう遅く、俺は丸呑みにされた。
早朝、警察から連絡を受けた男は後輩の衰弱死体を見てため息をついた。
「だから外出るなっていったのに」
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