男子高校生の雑談

「筋肉をつけたらモテるかもしれない」

 またコイツ変なこと言い出したと夷月は思った。


「ガリガリよりはモテるかもしれないけどさ、冬夜、運動オンチでしょ」


 真剣な顔をした同級生の体育の様子を思い出す。走れば遅いし、体力はないし、ボールは変なところに飛んでいく。突然なにもないところで転ける。生まれたのが狩猟時代だったら冬夜はすぐ死ぬ。間違いない。野生動物に襲われたなんて危機的状況ではなく、小石に躓いて頭打ったとかそういうレベルで。


「見せるための筋肉だ。運動する必要は無い」

「いや、運動しないと筋肉つかないでしょ」

 ダンベルを持ち上げられなくて沈み、ランニングマシーンで転ける姿も簡単に想像出来た。


「努力は必ず実を結ぶ」

 キリッとした顔で言われた。その顔だけばイケメンだ。黙ってればモテるのになんで黙ってられないんだろうなと夷月は思った。


「仮に実を結んだとして、冬夜文化部でしょ。いつ筋肉見せるのさ」

「脱げばいいだろう」

「教室で突然脱いだら露出狂だから。捕まるから」


 それもそうだなという顔をする冬夜を見て頭が痛くなってきた。


「そもそもさあ、なんでモテたいの」

「むしろなぜお前はモテたくない?」

「すでにモテてるから」

「顔面潰れろ」

「嫌だよ。絶対痛い」


 なんでお前がモテるんだという顔をしている冬夜は造形的には整っている。


「やっぱ黙ることから始めればいいと思う」

「死ねといっているのか」

「そのレベルか」


 たしかに授業中以外の冬夜はずっと喋っているが。逆にいえば授業中は大人しく出来る常識はあるのだ。


「これから冬夜だけ一生授業中。美術館の中」

「泣くぞ」

 切実な顔をされたので仕方なく真面目に考えてみたが何も思いつかない。


「やっぱ黙ればいいと思う」

「お前本当に俺の友達か」

「友達にも筋肉にも限界はあるから諦めて」


 そう伝えたものの諦めきれなかった冬夜は筋トレをはじめ、三日で挫折した。

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