弟
僕が弟の存在を知ったのはニュースだった。
何気なくつけたテレビの向こう側で、当時はほとんど話したことのなかった父親とその再婚相手。彼女に抱き抱えられた幼い子供が仲睦まじくインタビューに答えていた。
内容はよく覚えていない。
ただ幸せそうな、何の薄暗いこともないというような普通の家族という姿に安堵した。
この子が次の羽澤家を背負っていくんですね。というインタビュアーの言葉に、本人が望むのであれば。そう爽やかに語った父親はたしかに自分と血が繋がっているはずなのに、他人のようだ。それに抱き抱えられ、将来の不安など何も感じずにきゃらきゃらと笑っている弟も別世界の住人のようであった。
それでいい。
そう思って、息をはく。
閉じ込められた暗闇を覚えている。化物だと繰り返し言われた日々を覚えている。双子に生まれてしまったから仕方ない。そう弱々しく笑う同じ環境の子供たちを覚えている。
だからこれでいいのである。自分は日陰者でいなければいけない。それこそが多くの者にとっての幸せになるのだから。
ぼんやりテレビをみていると、小さな足音がした。お兄ちゃん! という声に視線を向けると、心配そうにこちらを覗き込む弟が目にはいる。
赤い髪に赤い瞳。自分にはまるで似ていない容姿。一切血は繋がっていない。誰が親かも分からない。それでも間違いなくこの子は僕の弟だった。
「なぁに? 比呂ちゃん」
笑いかければ比呂は安心した顔をする。両手を広げればきゃあ! と声をあげて飛び込んできた。
可愛い、可愛い大事な弟。この子がいればいいのである。この子がいるだけ自分はとても幸せなのだ。
柔らかな髪を撫でて、まだふっくらした頬を手でつつんで、目を合わせて笑う。キラキラ輝く瞳は喜びで満ちていて、比呂のみる世界が輝いていることが分かった。
それでいいのである。
「比呂ちゃん、おやつ、なに食べたい?」
「えぇーと……」
うんうん唸り始めた小さな体を抱き締める。悩む姿を可愛いなと眺めながら、もう一度テレビをみた。すでに番組は移り変わって、父親の姿も弟の姿ない。
それでいいのだ。と何度目になるか分からないことを思う。関わりなく、このまま出会うことになく死んでいくことが互いにとっての幸いなのだと。
なぜなら僕は呪われた子供なのだから。
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