第52話 死する兄の名演のこと

 その曲を知ったのは、十代終盤。

 図書館で借りたCDに収録されていました。


 フランソワ・ドヴィエンヌ作曲、フルート協奏曲第七番ホ短調。第三楽章のロンド・アレグレット;ポコ・モデラート。


 独奏者はジャン=ピエール・ランパル。

 ベスト盤だったので、第一楽章と第二楽章は未収録でした。

 夢中になって聴いたなぁ。

 バイトの行き帰りのバスに揺られて、イヤホンで延々と。

 今聴くと「この曲の演奏の難しさは口から魂が出そうだよなぁ」と雑念が混ざるのですが。若かりしこの頃、ただ美麗な音楽と響きに、ただただ恍惚としてました。


 バロック時代直後の、古典派に分類されます。

 ヘンデルの没年に生まれた、モーツァルトの三歳年下の、ファゴット奏者にして作曲家。モーツァルトのような流麗さとベートーヴェンと似通う激烈さを併せ持つ作風。


 堅人が死を目前にして最期に奏でる曲には、幾つかの候補が有ったのですが。

 最終的に、この曲になりました。

 これ、原曲はオーケストラを含むのですけれども。

 古典派の頃なので。

 独奏フルートの他の管楽器があり、それがオーボエとホルンが二管ずつ、なのであります。

 はい。

 オーボエです。

 独奏フルートの跳躍や飛翔する旋律は、ちょっとオーボエで吹くの無理なんじゃないかなと思わせるほどの造りをしてます。まあ音域もですけど、とにかく動きが細やかで速くて、全楽章は長大。フルートの持つ旨味を、これでもかと絞りに絞って集めてくれた、濃~い原液のような曲なんですよ。うわ、勝てない。これ、勝てない。って思わせる。

 いつも主役を張れるオーボエが(ホルンもだけど)、完全に添え物と化す。あれ、オーボエって、こんなに ひっそり出来るの? 弦低音と馴染んでる。なんならホルンと溶け合ってる。

 バロックのオーボエ大活躍に慣れきっている汐凪には、新鮮に感じられます。

 まあ、とにかく凄い曲です。

 気品がありながら情熱に燃える。堅人が最期に吹くのに相応しく思えます。


 アンドレア・オリヴァの演奏が一番好きですが、エマニュエル・パユやパトリック・ガロワ、アリアンナ・ピッチも素敵でオススメです。

 因みに若い頃のガロワさん、めっちゃ男前なんですよね……貴公子ですよ……乙女ゲームに出てきそう。フランス人の色気すげえ。今は王者の風格というか、隠者とか賢者とかいった肩書きも似合いそう。ごめんなさい好きです!!

 You○ubeに全員の演奏があるので、是非、検索してみてください。〝Devienne flute Concerto 7〟と入力すれば出てくるはず。フルート属だけでオケも担っている面白い動画もあります。伴奏がピアノのみの動画も。指の動きを見ているだけで「大変そう……」と思えます。あと、これも循環呼吸法が出来たほうが演奏表現に集中できそう? フレーズが長いもんで苦しそうなんですよ。つい力一杯吹きならしたくなるメロディラインだから余計に。オーボエと違って息が余るなんて無いだろうから、演奏中の目つきを見ていると手に汗握ってしまう!

 それを考えると細かい表現が一番甘やかなのはアリアンナさんかなぁ。名前をあげた奏者は全員が甲乙つけがたいんですけど、それぞれの個性があるので、どれも何回も聴いちゃいます。

 アンドレアさんが一番好きな理由は、ダイナミックなのに甘い音質と繊細な制御のもたらす清澄な響き、息継ぎの巧みさ、無理の無い自然な跳躍、安定感。ほんのちょっとした震えすら、ミスではなく故意に付けた表現なんじゃないかと思わせてしまう説得力。です! 決して! 決してヴィジュアルがフェゼリーゴを彷彿とさせるからではないのですよ、皆さま!! いやイメージめっちゃくそ似てるけど!


 さて、それは それとして。

 無伴奏フルートの曲も幾つか選出してあったのですが。

 バッハとかヘンデルとかバッハ息子とか。

 それこそ2008年ごろは「どれにしよう どうしよう」と思っていたのですけどね。

 2023年。

 全部、忘れた!!!!!

 ので。

 忘れたってことは、そんなフィーリング100%のコダワリは無いのだと割りきりまして。


 ドヴィエンヌ決定。


 まあ、そんなもんです(いつものことさ)。


 では。

 本篇、残り数話の仕上げに戻ります( ・`д・´)∠☆


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