第38話 サブタイトルは『悪魔の辞典』から
はい。
前回の宣言通り、
本編、第五幕第四場のサブタイトル、『【無防備である】とは〝攻撃できない〟であると冷笑派の巨頭ビアス氏は編んだ』について。を、お送りします。
えー、これまた汐凪が中学生だった頃に遡るのですけれど。
現在は企業の社員駐車場となっている場所にあった書店で巡り会ったのが、この『悪魔の辞典』でした。丁度、その半年ほど前に『絡新婦の理』に出逢っていましたもので、〝悪魔〟という単語に強烈な引力を感じていたのです。織姫・碧さんが超絶に好きなものですから。あ、美由紀ちゃんと葵さんも好きです。セツさんも憎めない。榎木津さんは神ですね。
まあ、
こちらの編纂者っていうか著者って言ったほうが相応しいのか分からん、とりあえず創った方。
アメリカはオハイオ州、メイグズ郡、ホース・ケーブ・クリークという開拓地域という名の辺境の村に暮らしていた貧農の家庭に生まれ落ちた、アンブローズ・ビアスという方です。
この方は貧しい家庭に育ちながらも知識を貪欲に得ていたようで、生前はジャーナリストというか辛辣な諷刺家といった肩書きで高名を馳せていたそうです。この訳本が出た頃は、短篇作家としての評価のほうが高まっていたと解説に記されています。
ともあれ残っている彼の文章は容赦ない皮肉が偏執狂的なほどに鋭いもので。標的としては組織や制度といった全体より、それを成している個であったのだそうです。鉄道会社と政府のごたごたに纏わる彼のペンの攻撃は、鉄道会社社長一人に標的を絞っていたらしく。過去に接点があったので個人攻撃と見る向きもあったとのこと。
また、諷刺のなかには特定の個人に対する反感や怨みを把握していなければ理解しがたいものもあるらしく。常態ではそうした感情が露呈しないよう文体や言い回しの技巧で覆っていたそうなので、相当に頭の切れる人物だったのでしょう。
そんな方の編んだ『悪魔の辞典』。
面白くないわけがない。
──そういう視点もあるのか!
と思わされます。
腹を抱えて笑うものもあれば。
眉を
基本的にAから始まる辞典の体を成しており、単語と凡例、意味の説明文が主体なのですが、まあ、単語の選別はなされています。つまりは日本語で言うと「う」の項が、ウォール街、ウシカモシカ、失うこと、蛆虫の餌、嘘つきと続いて一三の単語しかありません。そのため文庫本サイズという手軽さで携帯にも適したものです。ただし、日本語に訳するのが難解すぎて断念されたものもあるとのことで完訳ではないという、注意書きも添えてありますが。
と、まあ、これは引く辞典ではなく、楽しい読み物としての辞典です。(なかには難解なもの、前提知識がなければ意味を読み解けないものもありますが)順番に目を通していくべき、辞典なのです。そんなもん、他に知らないや。
さて。読んでいきますと。
ビアスさん、面白い人すぎます。
Aから始まるので、最初の単語はABASEMENT【卑屈】なのですが。意味が凄い。
「【卑屈】財力もしくは権力に直面したさいに示す、美風ともいえる心構え。」
何という言い方! しかし、これで終わりません。
「使用人が雇用主に対して話しかける際に、特にお勧めする。」
遠慮ねぇな。
身も蓋もないけど。
「BRUTE【けだもの】」なんて、「(HUSBAND【夫】を見よ)」ですよ。
「HUSBAND【夫】」を引くと。「食事後に食器類の後始末を押しつけられる人物。」とのこと。
「IMPUNITY【刑罰を受けないで済むこと】富。」
「MENDACIOUS【人を欺く】修辞学に凝る。」
「WHITE【白】黒。」
「YEAR【一年】三百六十五の失望からなる、ひと区切りの期間。」
といった具合です。
面白い、興味深い、だけでは済まず、これ現代では自主規制枠に入りそう、SNSで言ったらフルボッコだな、あーそういう時代だったんだなぁ、など、とてもここに出せないものも多いです。
それに、前記のとおり基礎知識というか前提となる知識がないと、なんのことだか意味不明、というものも多いです。私、「IGNORAMUS【無学な人】」の国語辞典のほうなのだと自認していますから(ほんとですよ! 悲しい程! いろいろ雑学は仕込んでますけど)
そして。
今回のサブタイトルに入れました単語。
「DEFENCELESS【無防備の】」
これ、
「攻撃できない」
なんです。
もう、このときの結架に対する集一の状況を指しているようにしか思えなくてですね。つい、調子に乗って取り入れてしまいました。
汐凪のオリジナルではないですよということで、ビアス氏の名前も付けたのです。
因みに『悪魔の辞典』は、その出版の数年前にA〜Lまでの収録で『冷笑派辞林』として出版されています。そこから冷笑派の巨頭と肩書きを献呈いたしました。今となっては、『【無防備である】とは〝攻撃できない〟であるとビアス氏は編んだ』でも良かった気がしますが、まあ、細かい性格の汐凪は満足できなかったのです。
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