第40話 なんだかんだカルミレッリは集一も好き

『熾天使と大天使(仮)』で書いていて、それと本編の第五幕の第五場を読み返していて、思ったのです。


 カルミレッリ、実は集一のこと、好きだよなぁ。


 結架に具体的なアプローチを仕掛けたのは、夕食に誘ったのが最後ですが。それまでにも、酒場で隣の席をキープしたり、移動の際も離れなかったり、休憩時間に積極的に話しかけたりと。振り返れば涙ぐましい努力をしていました、根が内気なカルミレッリ。

 でも、結架が集一と相思相愛になって。外泊事件があって。その後の結架の様子を見て。略奪愛を遂げようとはしない、カルミレッリ。

 目の前で幸せそうにされたら、この子としては引き下がるしかないのです。性格ですね。自信がないわけではない。でも、盲目的に〝自分のほうが〟とは思えない。恋敵が集一だからかもしれませんが。


 まぁ、エピソードとして明確に出してはいませんけれども。

 矢鱈と細かい性格の集一。

 皆が見逃すようなことも気づいて、さりげなく世話を焼くようなタイプです。先回りが得意。生家で培った能力であり、自己防衛の一種でしょう。言われる前に済ませておく。やいのやいの言われたくないので(笑)。

 それが繊細な感受性を持つカルミレッリとしては、「よく気のつく人だなぁ。凄いなぁ」と、感動するのです。

 気づいても気後れしてしまい実行に移せないカルミレッリからすると、極々自然に押し付けがましくなくスマートに振る舞える集一は、敬意を向ける対象であるのです。憧れでしょうね。


 あとは、結架の言葉が効いている。

 アレティーノの店でピアノを弾いた理由を「誰よりも大切な人を、なんとしてでも援けたかった」と言った、コレですね。イタリア語で言ったので、カルミレッリの激怒に対して向けた、彼の気持ちへの回答です。

 ナチュラルに〝誰よりも大切な人〟と断言。

 そして、彼の役に立つピアノ演奏が、幼い頃から今までのどの瞬間よりも喜びだったとまで語られて。

「──あ、なんか完敗したっぽいや……」

 察知。


 それでも諦めずに、ぶつかっていけばいいじゃないとマルガリータなら助言しそうですが。

 結架さんも割りと繊細っぽいので。

 下手に突撃して(気持ちを正確に伝えて)、避けられるようになってしまったら、堪りません。

 気まずくなるのもイヤだし。

 かと言って、あからさまに対象外として意識される扱いに変わるのも厭だし。

 それなら……。

 これまで同様、警戒心なしの親しい仲間として接するほうが、余程、幸せだと思ったのですね。

 自分の恋情を貫いて報われようとするより、よりよい今後の おつきあいを優先したと。


 それが苦痛とまではならないほど、集一への好感度が高いのですね、多分。多分ってなんだ。いえ、好感度、高いです、はい。


「そういえばシューイチって、ぼくがユイカを買い物やお茶や映画鑑賞に付き合ってよって誘っても、嫌な顔しないよね。めないし、ついて来ようともしないし。余裕っていうか嫌味っていうかイイデスヨネ安泰で」

「そういうわけでもないけどね。我慢してるんだよ。君は結架の大切な人だって知ってるから」

「え……シューイチ……、それ、ほんとに……っ(赤面)、本気で言ってるの……?」

「勿論。だから、うちには君は絶対に泊めないよ」

「笑顔なのに目が……目が怖いって……(涙目)」

「僕は心が広くないからね」

「存じてますよぅ……」

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