第18話 トリーノを舞台に選んで苦労したことと、それによって得られたもの

 何度も既出のことで恐縮ですが、イタリアの書籍を最初に購入したのは中学生のときだったので、いろいろ調べる主な手段は図書館で本を探すというものでした。

 しかしながら、欲しい本があっても、一般中流家庭の娘で自由になる金銭が多いとは言えない身です。手元に情報を残すのであれば、図書館で許可の出た本のページをコピーするか、手書きで書写するかでした。総ページ数にコピー代をかけて、本の定価とどれだけ差が出るか、計算したもんです。専門書のたっかいこと! 当時の居住地の図書館にはコピー機があり、申請書を出して通れば、コピー出来ました。複写したいページの数字を漏らさず書け、ということで、まあまあ面倒でしたなぁ。まあ、多分ですけど、きちんと使用料を税金で納めるためだったのでしょう。きっちりしてましたね、そのへん。


 まったくもって閉口したのが、中世時代のヨーロッパの支配圏を国別に分けて縞模様や黒塗りや斜線模様などで白黒であっても判別可能なようにしてあった地図の模写、ですかね。教科書やんけ。


 1ページ丸々楽譜を写譜したバッハの解説本も難儀しましたけど。音階を間違えたら半泣きです。修正液なんて使うと、五線まで消えてガタガタになるので。だがしかし修正テープはデカすぎて連続する小さな黒い丸を一つだけ消すのは無理だ。うんざりしましたが、コピーなんてしようと思うと、紙幣で何枚分の小銭が要るものか、ぞっとしたくらいでしたのでね、仕方なく。図書館の机を長時間に亘って占有することが頻繁にありましたことを、ほかの利用者の皆さまに お詫びいたします。

 そして、細ーく切った紙を五線の横線おうせんと横線のあいだ2ミリほどの隙間に貼る技術はモノにしたことを誇らせていただきます。でも、複縦線ふくじゅうせん(終止線)を縦線じゅうせん(小節線)に修正しないといけなかったときと、縦線の位置を間違えたときは、虚ろな目で作業しましたよ、自分の不注意を呪いながら(これは自室に籠もって作業しました)。ほら、汐凪ってば吹奏楽部にいたくせに楽譜ちゃんと読めないから(なんとなく読んでる気になってる)。♩=88と90の違いとか、ちゃんと数値的に理解して演奏に反映できないんですよ……付点四分音符=88なら四分音符132にすればいいとか、なんですかそれ……とことん数字に弱い。で、四分の四拍子だとか八分の三拍子とか前提指示が追加されると、もう、?????。数学は図形問題しか解けないんです、いろいろくどくど考えるタチなので……シンプルで無駄のない思考が出来ない。そして、理解力が低いにもかかわらず、堪え性がない。あ、ちょっと落ち込んできたから、この話題、やめよう。


 ……とりあえず、何が言いたいのかというと、ものごとを調べるのが苦ではない、ということなのですけど。

 トリーノについて調べるのは、まあぁああ、大変でしたね……。


 まず、無いんですよ。

 観光ガイド専門誌でヴェローナは多少なりともあるんですけど、トリーノは無いことが多く、あっても1ページにも満たないことが殆ど。近い都市でミラーノならば載っていますが、写真なんて特に無い。市街地の地図も当然、無い。途方に暮れました。めっちゃくちゃ運よくトリーノの紀行本(たしかそうだけど街並みの写真は無かった……絵が描ける方だったから挿絵だった……)で著者の手書き地図を手に入れられたので、なんとか書けた。今でもカラーコピーを手元に残しています。書籍名が分かれば、今ならきちんと購入するのですけど、この地図のコピーしか残っていなくて、ごめんなさい著者さま(写真ほしかったです)。

 いや、ヴェローナもサンゼーノ・マッジョーレ聖堂の入り口にある青銅扉の彫刻が見たくて見たくて、美術の本も索引で『キリスト受難伝』を目を皿のようにして探しましたけど無かったし、教会の写真集も読みあさりましたが空振りましたし、トリーノなんて尚更なくて泣きました。


 これも既に語りましたが、2006年にトリノ五輪があったじゃないですか。

 密かに期待していたんですよ。

 街の雰囲気とか、史跡とか、王立劇場は難しいかもしれないけど、テレビで見れるんじゃないかなって!

 ──数年間の苦難が、いまやっと報われるのか⁉︎

 超ワクワクしてました。金メダルなんて、どーでも良かった荒川さん以外(無礼千万)。


 な・の・に!


 ぜんっぜん無かった。

 競技会場の中ばっかりで、街なんて、全然でねぇ。

 タレントなんて映すな街並み放送しろ!

 何度、叫んだことか。

 就労義務からは逃れられないので、一応は開会式を録画もしましたけど、そりゃ、私の見たいものは、出ないよなぁ。そうだよなぁ。で、終わりました。


 ということで、いま現在、トリーノの街歩き的描写を公開している情報は、ここ数年にインターネットで仕入れたものです(ありがとうGoo◯le Earthでも人間は消してほしかったよ)。つまりは作中のころとは違う可能性も大いに有り得るわけです。トリーノよりは資料になる本が多かったヴェローナでも、サン・フランチェスコ・アル・コルソ聖堂は1993年初版の書籍にはその名が出てきますが、いまはフレスコ画の博物館だそうで、一体いつからだチキショウ。(だからあたしゃファンタジーで全部創るほうが好きだ国制国色地理地産文化技術呼吸困難瀕死)。


 苦労ばかり思い出しますし、なんなら今でも裏づけしようと思うと胃がひっくり返りそうになります。


 ただ、得られたものも、あるんですよね。


「これ読んでる方だってトリーノを隅々まで歩いたわけじゃないだろうし、調べる労苦を進んで背負おうなんて酔狂な読者が現れる可能性なんて絶無だろうから、心配しなくても、いーや!」


 ローマやフィレンツェ、ヴェネツィア、ミラーノ、ナーポリみたいな超有名都市だったら、資料も多いけど、実際に行ったことのある人が多すぎてツッコミされまくり。リアリティ崩壊だっただろうな、と。


 皆さーぁん! トリーノには行かないでねぇえ! チョコレートは現地に行かなくても買えるからぁあ‼︎

 トリーノ知ってる方ぁあ、並行世界パラレルワールドって言葉を、ご存知ですよねぇえええ⁉︎ そういうことで、お願いしまぁあす‼︎

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