第30話 性愛の話に苦労する(2−1)結架さんは恋愛ドラマや映画を観ない

 はい、ひきつづきお願いします。

 これ、毎週、書くのか、私。


 ──っていうか、相手の性知識がどのくらいあるのかを知ろうと思うなら、やっぱり、どんな作品を知っているのか訊きますよねぇ。マルガリータ、正解! これ以上に手っ取り早い方法を、私は知らない。


 で。

 結架の回答ですが。


 ──オペラかよ!


 なんと一般的でない。まあ、結架が、いかに一般とズレているかの表現なので、これはこれで正解なのだけど。しかし、皆さんには「なんのこっちゃ?」の作品もありそう……。

 とはいえ、汐凪の筆力で、作中で全てを説明するのは無理だ!!

 ということで、以下、解説を出来るだけ短く。


『オルフェオ』ギリシャ神話のオルフェウスの物語。死んだ妻を黄泉に迎えに行くが、現世に帰る途中で振り向いてはいけないという条件を破ってしまって失敗するという、日本神話ではイザナキとイザナミにあたる物語。最後はオルフェオを父の太陽神アポロが迎えに来て終わる。クラウディオ・モンテヴェルディ作曲のオペラが有名ですが、ヤコポ・ペーリという歌劇を確立した作曲家も書いてます。最初のオペラ作品ということですね。


『ジュスティーノ』農民として生きていたジュスティーノが皇帝の妹を熊から、妻を怪物からそれぞれ救い、敵国の王と和解(実はジュスティーノとは兄弟だった)し、ついには共同皇位に就き、皇帝の妹を妻とする。謀略と恋と因縁の渦巻く物語で、スカルラッティ版、ヴィヴァルディ版、ヘンデル版が有名で、この時代の作曲家にとって重要もしくは魅力的な作品らしいです。


『ロメーオとジューリエッタ』説明不要なほど超有名な、敵対する家同士に生まれた男女の悲恋物語。時間差心中の結末が無残。オペラはシャルル・グノー作曲かヴィンチェンツォ・ベッリーニ作曲(ただし題名は『カプレーティとモンテッキ』)が有名です。バレエのプロコフィエフ作曲のほうが知名度は高いと思います。チャイコフスキーの幻想序曲もよく知られていますね。


『トリスタンとイゾルデ』アーサー王伝説にも含まれる、ケルト起源の悲恋物語。敵対国家を和平に結ぶことは出来たが結ばれなかった王子トリスタンと他国の王女イゾルデの物語で、イゾルデはトリスタンの叔父である王の妃となるものの、愛の妙薬の効果も重なってトリスタンと道ならぬ恋に落ちる。いろいろあってトリスタンは同名の別人と結婚しますが、戦争で瀕死となってしまいます。医術に優れたイゾルデが到着する間近に彼女が来ないという誤情報に絶望して彼は死に、間に合わなかったことを嘆き悲しんだイゾルデも遺体に取り縋って息を引き取るという結末。ワーグナーが台本も作曲も手掛けたそうです。すげぇ。


『椿姫』原作小説を書いたのは小デュマ。とはいえオペラでは細部が異なります。高級娼婦と青年貴族の悲恋。当然ながら青年貴族の父に猛反対され、病を得ていたことから恋人を遠ざけ、死にゆく〝道を踏み外した女〟。最期を看取ってもらえたことだけがオペラ版の救いと言えるでしょう。ヴェルディ作曲。


『カルメン』ジプシー女工のカルメンと婚約者のいる男ドン・ホセ、婚約者ミカエラ、心変わりしたカルメンの新恋人エスカミーリョの物語。嫉妬に狂ったドン・ホセにカルメンが刺殺されて終わるという悲劇。それでもメリメの原作よりソフトに改変されているそうです。ジョルジュ・ビゼー作曲。ハバネラなど、単独で知名度の高い曲を多く含みます。スペインを舞台としていますが、歌詞はフランス語、初演がパリ、だって作曲したビゼーさんフランス人だもん。なので、人名の発音はフランス語読みなのだそうです。ホセは、ジョゼ。わぁ……。


『トスカ』暴虐な王政ローマの歌姫トスカには画家の恋人がいて、共和主義者として活動。だが、彼は捕縛され拷問を受けた挙句に処刑が決まってしまいます。トスカは王政側の警視総監に身を捧げることを条件とする取引をして恋人を助けようとし、自らの貞操を守るために警視総監を刺殺。しかし、取引を信じて恋人の見せかけの処刑に立ち会ったトスカは彼が本当に処刑されて初めて取引が嘘だったと知り、城壁から身を投げる。プッチーニ作曲。救いがどこにもない物語ですね……。傑作漫画『動物のお医者さん』でハムテルの母君がトスカを演じていて、コメディになりました。空気椅子に耐えるスカルピア、小道具のナイフが見当たらなくて絞め殺す歌姫、好き♪


『アイーダ』エジプト王女に仕えるエチオピア人奴隷女で実は王女のアイーダと、エジプトの若き軍人ラダメスの悲恋物語。義務と愛に挟まれたラダメスはアイーダの父王を殺させないよう努めるものの、自国を裏切ることを許せず、エジプト王女の求愛も断って地下牢で生き埋めの刑に処されることになる。ラダメスの漏らした機密情報で逃げていたはずのアイーダと地下牢で再会し、全てを承知の上で待っていた彼女と心静かに死んでいくという結末。ヴェルディ作曲。アイーダ・トランペットと呼ばれる長い管の楽器6本でエジプトらしさを出そうとしたヴェルディは、かなりエジプト文化を学んだらしいです。この楽器をメインとした凱旋行進曲は、日本のサッカー応援曲として使用されているため、非常に知名度が高い。


『リナルド』原作は『解放されたエルサレム』。十字軍の勇士リナルドを排除するためエルサレム軍の王の恋人で魔女のアルミーダがリナルドの婚約者アルミレーナを誘拐。リナルドは救出のために旅立つものの、アルミーダに囚われてしまう。そしてあろうことか、アルミーダはリナルドに、エルサレム軍の王はアルミレーナに心変わり。リナルドとともに旅立っていたアルミレーナの父と叔父が魔法使いの協力を得て娘とリナルドを救出。エルサレムはリナルドと叔父によって陥落し、アルミーダと王はキリスト教に改宗するという結末です。ヘンデル作曲。「私を(ひとりで)泣かせてください」と王の求愛を拒むアルミレーナのアリアが大変に有名。この曲については、以前、第8話でも呟いてましたね……。


『蝶々夫人』日本の長崎が舞台で、没落藩士の娘で芸者をしていた蝶々さんと呼ばれる少女とアメリカ海軍士官の物語。初めから蝶々さんを現地妻としていた海軍士官は帰国後に同国人の女性と正式な結婚をしてしまいます。しかし、蝶々さんは海軍士官の子を生み、彼を信じて待っていました。罪悪感で言葉もない海軍士官と再会しますが、彼の目的は子どもを引き取ること。彼が立ち去った後にアメリカ人妻と対面した蝶々さんは子どもを渡すことを決意し、自刃して果てる。プッチーニ作曲。まあ、世界中で国籍問わずにあった出来事ですね。子どもに愛着を示すだけ、ましかもしれません。


『フィガロの結婚』三部作の二作目にあたり、『セビリアの理髪師』の続編。前作で伯爵の結婚を実現させたフィガロは家来に取り立てられました。が、そのフィガロの結婚がいよいよ整うかというとき、伯爵は初夜権を復活させてフィガロの新妻とよろしくやろうと目論むのです。さまざまな事情でそれぞれ恨んだり横恋慕したりしている周囲の人間たちが次々と各々の策略や罠を張り巡らせ、思いを遂げようと奮闘しますが、意外な真実が発覚したり、物事を解決できる人間が現れたりして、結局すべて収まるべきところに収まります。新たに結ばれたり、やっと結ばれたり、仲直りして結ばれたり、大団円で幕を閉じるのであります。モーツァルト作曲、さすが。


『ドン・ジョヴァンニ』女たらしの貴族で剣の腕も立つドン・ジョヴァンニが騎士長の娘の部屋に夜這いで侵入したところ騒がれて、助けにきた騎士長を返り討ちにして殺してしまうところから、復讐相手として娘に狙われる物語。かつて婚約しながらも棄てた女性エルヴィーラに追いかけられて逃げ回ったり、懲りずに新婚の花嫁を口説いたり、従者と入れ替わってエルヴィーラを騙し彼女の女中に愛を歌ったりと奔放に振る舞ってます。ぶん殴りたいですね。深夜に墓地の騎士長の石像が話し出しても怯えず晩餐に招くドン・ジョヴァンニ。その晩餐でエルヴィーラが忠告しても聞こうともしない彼でしたが、そこに騎士長の石像が現れて悔恨するよう迫ってきた! しばらく押し問答をしましたが、やがて「時間切れだ」と言うなり石像は消え、地獄の戸が開いてドン・ジョヴァンニを飲みこみました。よし、掃除完了。一同はその顛末を従者から聞き、悪漢の最期はこのようなものだと歌って閉幕。モーツァルト作曲。前年に大好評となった『フィガロの結婚』からアリアを一曲、挿入し、「これ有名な曲」と言う台詞を言わせています。さすが。


『夏の夜の夢』人間の男女の結婚に関する四角関係と、妖精王と妖精の女王の夫妻の喧嘩という、しっちゃかめっちゃかな物語。ライサンダーという恋人を嫌う父に別の男性と結婚するよう迫られて森に逃げるハーミア。友人ヘレナはハーミアの結婚相手ディミートリアスを恋い慕っているため、彼が恋するハーミアたちの後を追うだろうと推測して自身も森へ向かいます。さて、人間の若者たちがやってきた森では妖精王オベロンと妖精の女王ティタニアが喧嘩中。オベロンは妖精パックに眠っている妻の瞼に惚れ薬を塗らせます。パックは若者たちにもこれをやらかしたので、四角関係に大きな変動が起きてしまい……。最終的には妖精王と女王は和解し、若者たちは2組のカップルとなり、全員が円満に幸せになって、めでたしめでたしとなります。オペラでは初期にあたるセミオペラとしてヘンリー・パーセルによる作品があります。ベンジャミン・ブリテンもオペラを書いてます。ただ、メンデルスゾーンが書いた「結婚行進曲」が一番有名ですね。たぶん誰でも知っている。劇付随音楽なのでオペラではありませんが。

 因みにティタニアですが、アイルランド民謡での妖精の女王マブと同一視されており、シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』にその名が登場します。そのころは、夢というものは妖精によって見させられていると考えられていたのだそうです。『恋慕の鎖』でも、第一幕において夢の世界の統治者としてマブ女王の名を出してました。えへぇっ。覚えてくださっている方、いらっしゃいますか?


 閑話休題。

 ……長かった……。

 出来るだけ短く説明したいと思ったのですが、難しいですね。なんとなく、伝わりましたでしょうか?

 『トスカ』で、ほんのり。『フィガロの結婚』で、前提知識のみ。『ドン・ジョヴァンニ』で、ちょっと具体的に。

 いや、性技なんてオペラで描かないから、まあ、最低限の知識しか得られていないだろうということですね。

 以上のオペラ以外にも、結架は知っているぞと言いたげでしたが。


 ……初心だな。

 映像作品の生々しい表現に、敵う訳ないもん。例えば? そりゃもう、昔の地上波ではモザイクかけないと放送できなかったオマエだ『カストラート』! 深夜で音量はそれほど大きくなかったとはいえ、慌ててミュートにしたぞ! 思わず思春期だった私は隣の部屋の家族が寝てるかどうか息を止めて様子を窺ったぞ、ばかたれ‼︎(泣)


 ──えー、長くなりすぎましたので、ワイルド作品については次回にします!

 と言っても、解説できるほど読んでいないのですけども(ごめんなさい!)。

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