第14話 画家的詩人──ルネ・フランソワ・ギスラン・マグリット

 背広の画家、マグリット。

 ベルギーを代表する、シュルレアリスムの大家。

 彼はアトリエという専用の仕事場は持たず、自宅の台所の片隅で仕事をしていたそうです。

 ワイシャツに、ネクタイをして。

 近所の人でも画家と知らず、銀行員と思っていた人もいたとか、いないとか。

 このエピソードだけで好きです、このひと。

 結架の叔父が彼女に話したのは、そういう変わった人となりなどです。


 超絶愛妻家であり、愛犬家。

 イタリア、フィレンツェのウフィッツィ美術館に友人たちと向かったものの、「ルルが嫌がるから見ない」と、入り口で愛犬ルルとともに入館拒否。結局、宥めすかされたのか入ったものの、ほんの五、六分で出てきちゃったらしい。他人の美術作品に興味ゼロ。

 さすが、「私は詩人であって、画家ではない」なんてブリュッセルの美術館の館長に告げる御仁です。


 ちなみに、カクヨム内のエッセイ『創作は深夜にすすむ』第14話(これとリンクしたぁ!)〝光の帝国 マグリット〟でも少し語っております。その前の13話〝美術語り〟でも、最後に触れています。


「なに考えて、これを描いたんだろう」

 そう思うので、彼の作品が好きです。

 アトリビュートもクソもない(あるけど汐凪が分かってないだけだったりして……)、破天荒っぽさが大好きです!



 『ピレネーの城』

 『光の帝国』

 『白紙委任状』

 『大家族』

 非常に有名で印象深い作品。

 どれも学生時代に使っていた美術の便覧に掲載されていて、なんともいえない不思議な絵だと思って眺めていました。題名と題材が微塵も結びつかないのも不思議で。中学生になったときに〝ポスターカラー〟という絵具を使って絵を描く授業がありましたが、あの色調と似ていて、広告画のような雰囲気の作風だなと思っていたように記憶しています。油彩なんですけどね。コントラストのせいかな?



 そういえば、多分、マグリットの作品にそうと知らずに初めて触れたのは『共同発明』だったような気がします。とある漫画で見たんですよ、あの強烈な題材を。

 ──浜辺に横たわるは、人魚。

 そう。人魚です。どう見ても、人魚と説明してしまう。ただし、人魚姫のような姿形ではない。

 察しの良い方には、ここで「ああ……」と、イメージが脳内に浮かぶのでしょうか?

 いわゆる人魚姫の組み合わせの、残りの部分が……あれほど彼女が欲しがった美しい脚が、魚の上半身について……というか、見た感じは〝女性の腹部から魚の頭が生えてる〟様相。半開きの口が息苦しげで、生々しい。でも、下半身はエロティックで、美脚。

 また打ち寄せて来ようとしている波がね……もうね……寒々しい。

 寝そべって寛いでいるとも、エラ呼吸できなくて瀕死でいるともつかない姿が、幻惑そのものでしてね。目が離せなくなる。

 私のAB型の血が騒ぐのです。

 鑑賞したときの、この、なんとも言い難い気持ちを、誰か分かち合ってくれませんか?

 ちなみに、肝心の、きっかけである漫画が誰の何という作品だったのかは、思い出せません。4コマ漫画だったような気はするのですが。ご存知の方がいらしたら、耳打ちしてください。



 さて、そのうち図書館で画集を眺めるようになると、

 『貫かれた時間』

 『ゴルコンダ』

 『透視』

に、心惹かれます。

 なんか夢で視たことある気さえしてくる、こういう場面。


 そして、マグリット展で買い求めた絵はがきは、『The blow to the heart』。『心への打撃』、で、良いのかな。個人的には『真心にうけた致命傷』なんて口走りたくなりますが。

 可憐な一輪のピンクの薔薇が大輪の花を咲かせていて、寄り添うように鋭い短剣が抜身できっさきを上に向けている構図です。よく見ると、短剣の柄は薔薇の幹から枝としてのびていて、要するにこれは棘が巨大化しているようなものなのか、それとも花自体のもう一つの姿なのか、考えてしまいます。

 でも、画家自身は、「解釈するな! 感じろ!」という方だったらしいので、「とりあえず薔薇の棘を侮るな」ということで私は納得します。


 もうひとつ、部屋いっぱいにみっちりと咲き誇っている真っ赤な薔薇、というような作品もあるのですが。その薔薇の色と、この短剣薔薇の色は、まるで違うんですよ、面白いことに。鮮やかで目に眩しい、いっそ毒々しいほどの赤で襲われる印象の薔薇は、ただ大人しく部屋で咲いているだけ(部屋が薔薇一輪で埋まってるけど)。対して、短剣なんて文字通り剣呑なモンを携えている薔薇は儚げで、荒地に慎ましやかに咲いている、上品なピンクの花弁。……意味深ですよねぇ? 赤い薔薇の絵は『レスラーの墓』というそうですが、このタイトルはフランス人作家の小説から想起したらしく、未読であることも踏まえてノーコメントといたします。


 『凌辱』という作品を見て、愛妻ジョルジェットさんに纏わるエピソードを知ると、マグリット氏は女性に対して非常に理知的というか、一個人というものを大切にしていたんだろうなと思えて、この二つの薔薇の絵が彼のどういう感情を含んでいるのかと想像を巡らせてしまいます。



 ……とまあ、こういうことを叔父さんは結架に〝寝る前のおはなし〟として語って聞かせていたということなんです。


 ……あれ、これ、〝少女〟にとって〝眠れなくなるほど面白い話〟で、いいのか……?

 一応、私も〝少女〟の気持ちは知っているはずなんだけど、いいのか? いいよな? いいにしとこう。うん、結架は、こういう子です!(美弦に繋がっていくということにしよう──これについては、またいつか、語ろうと思います。あまり深く触れちゃうとネタバレになるので、乞うご期待ということで!)

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