第27話 待って待って年老いたのかもしれないけど気のせいだったなら信じがたい神さま嘘でしょとなった件

 最後にオーボエを触ったのって、もう、かなり昔。

 3年間あったクラリネット吹きの時間も、ときの彼方に過ぎ去って久しい。

 ああ、私は、随分と…………老いてしまった。


 あのころの若かりし私は、

 キュイッ!

 ピッ!

 とかいうリードミスの雑音に敏感だった。

 プゴッ!

 ブパッ!

 ふゅいいん!

 なんて音も、目を閉じて耐えた。


 吹奏楽部あるあるですかね。


 自分も、まあまあの頻度で発していただろうことは、忘れてはならない。


 小学生のときは合唱部で、ソプラノもメゾソプラノもアルトもやりたがり、曲によって歌いたいパートに入ってました。っていうか、日替わりに近かったし、実は違うパートで歌うという気まぐれっぷりをブチかましておりました。問題児。

 ええ、大会とか発表会、式典などでの機会では、独唱してました。一応、顧問や担任の先生からの指名をいただいてはいましたが、やらせないと面倒クサイことになりそうという不穏な気配を察していてくださった可能性も大いにありますし、ほかにも独唱する子はいたので、自慢するほうがハズカシイかなとも思うのですが、自負するものはあるのです。


 音程を外さないのは基本中の基本。

 音を長く伸ばすロングトーンの安定感は当然として、音を強くしていくクレッシェンドや、逆に弱くしていくデクレッシェンドも美しく。まあ、音を美しく揺らすヴィヴラートが出来るようになったのは、この数年後ですが。

 テンポなんて無意識下の領域で守れ。

 ハーモニーのバランスも大切。

 隣の子が違うパートを歌っていても、つられるなんて、有り得ない。なんなら違う曲を聴きながらでも正しく歌えるように。


「あっ、誰か音ハズしててキモチ悪い」

 ──和音が崩れて揃わないじゃねぇか誰だこのやろう💢

 なんて思うくらい高慢ちきでしたね、やなやつです。めっちゃ感じ悪い。


 ──と、まあ、そのくらい、耳には多少の自信があったわけです。絶対音感はないですけど。相対音感も怪しいですけど。音名は浮かばなくとも、ただ、この曲のここで、が直感で判る子ども、でした。それが雑音であること=あってはならない音、は聴き取っていたのです。ずっと。とはいえ感覚的なものなので、「楽譜の音と違う」、とは、思わないわけですが(オイ)。


 それでですね。

 第23話にて、めちゃくちゃ崇拝の念でもって名を挙げたオーボイストのお歴々で、とある録音の演奏なんですけども。ええ、誰とは申し上げませんが。

 とても好きな曲がありまして。ソナタなんです。

 オーボエとピアノ。チェロを編成に組むこともあります。

 これがね。

 好きな曲・好きな演奏だから、余計に気になる音が聴こえちゃって。


 なにかっつーと、運指の操作音。


 小さくも連続して金属音が聴こえて苛々したのです。

 かちゃかちゃ、かしゃかしゃん、って。

 クラリネットを吹いていたとき自分でも演奏中に発生させていて聴いていたので、正体が解っていただけに、まあ、気になって仕方ない。

 どの運指でも鳴るかというと、バネとかキーの大きさや位置、楽器そのものによっても違うっぽい。でも、音楽が規則的に進むので、この金属音も規則的に聴こえる。一曲通して。苦痛。

 しかも、なんかブレス音まで聴こえる気がするぞ、この録音。

 小編成でホールの響きが良くてマイクが高性能だったのかなぁと思いつつ。

 まあー気になる。

 演奏が美しいだけに、なお一層のこと気に障る。これさえなければと涙を飲む。


 それを、エピソードのなかに、登場させたんですよ、当時。

 で、現在。

 カクヨムにて公開すべく写していて。

 この書き方の説明で楽器なんて触ったことないよ~って方にも伝わるかしら、どうかしら。とか考えつつ。聴くじゃないですか。せっかくだから。


 そしたらですよ。


 あれ?


 え?


 いや、これだよ?


 聴こえない。


 あれだけ耳について不快だった、あの、かちゃかちゃいう音が。


 聴こえない。


 えええええマジでぇえ……。


 かなりショックなんですけどマジでぇ……?


 年齢……?

 トシくって聴こえなくなったの?

 ぅわぁあああ、前提!

 前提条件が消えた!

 証拠物件Aの証拠能力が、なくなっちまった!


 エライこっちゃ。


 で、同じCDの収録曲、すべて。

 もっかい聴きました。全集中で(笑)。

 スマホのスピーカー(手持ちのどれよりも最新機種で信頼できる)を耳に押し当てて息を殺しながら。


 そしたら。


 き、聴こえたぁあ金属音!

 よおぉっっっく耳を澄まさないと聴こえないけど、トリルんとこで聴こえた聴こえた!!

 ばんざぁーい!!


 いやぁ焦りましたねぇ。

 過去の記憶が夢だったとか気のせいだったとか勘違いだったとかだったら、どうしようかと。

 エピソードを削ろうかと思いましたよ。

 矛盾の件だけでも頭が痛かったのに、これはヒドイどうしよう、と慌てふためきました。


 そんなわけで今年一番、動揺した瑣事です。


 そして、このエピソードは第四幕第七場、験かつぎと音楽家たち(2)にて2021年4月23日(金)に、無事お披露目できそうです。

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