第一章10 《謎の『あだ名』は突然に!》

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 どうやら通常登校の初日から俺と四夜はクラス中からの注目を集めてしまったらしい。


 と、言うのも




「山瀬だっけお前の名前?まぁそれは置いといて、今クラス中で山瀬が何て呼ばれてるか知ってるか?『ファー』だぜ『ファー』!」




 などとほざきながら俺の前の席でゲラゲラ笑っているこの男は、名前を村田むらた つばさと言う。




「初めて聞いた時は何だよそのクソダサいあだ名って思って腹筋崩壊するくらい笑ったぜ。なぁファー?あっはっはっはっは!!」



 たくっ……憎たらしい奴だ。思いっきり顔面にマヨビームでも喰らわせてやりたい所だが、生憎手元にはマヨネーズもインスタントのソース焼きそばも無い。

 せいぜい感謝する事だ、現在俺の小腹を満たす為……と言う重大任務も忘れ、店先の商品棚に飾られたままのコイツらにな。

 いや、やっぱり食い物に感謝するのは頂きますの時だけだ、と言う訳で俺に感謝しやがれ。

 まぁこんな事は置いておくとして、なぜ俺がファーなどと呼ばれてるかと言うと、それには先程の俺と四夜の黒歴史が絡んでくる事になる。




 そもそもファーとは伝説的殉教者でんせつてきじゅんきょうしゃのクリストファーからとられているらしい。


 クリストファーとは新約聖書の中でイエス・キリストを肩に乗せ河を渡ったと言う人物の名前であり、転じて神を運ぶ者と言ったイメージが定着しているとのこと。




「で、何で俺がクリストファーとやらの殉教者となぞらわれているんだ。その理屈で行くと四夜は神か仏になってしまうぞ。正直言って程遠い。あいつには一番似合わない単語だ」




 この時俺は、鬼の居ぬ間に洗濯とは良く言った物だと昔の人々の残した言葉に感心せずにはいられなかった。



 レベルに応じた移動クラスの為、現在俺の後ろに四夜がいないからこそこんな話が出来る。



 因みに現在の授業は英語で、レベルはA、B、Cの三段階に別れている。


 四夜は一番上のAで俺はBだった。帰国子女だからってさりげなくうざい。全く、世の中ってのは本当に理不尽で不平等だと思う。




「四夜 一期さんが神がかり級の美少女だからに決まってるだろ。駄目だ、全くもって駄目駄目だ! 転入したてとは言えこんな事も分からない何て、ファーの眼には丸太でも転がってるんじゃ無いか?」




 目の中に丸太が入っている訳がないだろう。


 俺はこの辺りから村田むらた つばさの話に興味を失い初め、四夜に貸している教科書の補填を補う為に、適当に聞き流しながらノートを取る事に専念する様になっていた。




「その上さぁ、お前朝から四夜 一期さん背負って2ショット登校決め込むとかどんだけ恵まれてるんだよ! クソォウ! 何処で会ったんだ! 教えてくれ! 俺も四夜さんのおんぶがしたぁい!」




 全く、世の中には物好きな奴もいるもんだ。




「一緒も何も同じ寮で暮らしてるんだぞ。」




 この時の俺はあっさり答えてしまったが、今さら考えればトンでもない事を言ってしまったのだ。



 当然……


「同じ部活に入っているのか……?」



「いいや」



「は……はぁあああっ!? って事は四夜さんと、どどっ……同居してるのか!?」




 村田むらた つばさのけたたましくも決定的な一言によって、クラス中の男女が一斉に俺の方を向く。



 やっちまったと後悔してももう遅い。俺のお馬鹿ちゃんめ!



 ハゲ頭の先生が五月蝿いと村田 翼を注意するがもう焼石に水。



 気がつけばクラス中は恋バナムード1色で、既に授業など小五月蝿いBGMと化していた 。




「付き合ってるのか………?」



「なっ………そんな訳が無いだろ!万が一にもあいつとだけはあり得ない。そんな事したら俺が一週間かそこいらで過労死する。それに…」



「勿体ない奴だ。周りの女子をよぉーく見てみろ。こん中で四夜 一期さんと肩を並べられる程の目映い美女がいるか?せいぜい良い線行ってるのは委員長の藤原さんくらいだろ。」



「あぁ、そうかもな………」




 村田 翼はニヤニヤしながらブレザーの内ポケットから銀色の何かを取り出し、眺め始める。




「俺が思うに…四夜 一期さんはSランクの中のS。もはや神の御技『Sランク++』と言った所だな。性格にやや難がアリだが………やっぱサイコーに可愛い!それを万が一もあり得ない何てファーの目はレーズンなのか?」



「バカにしてんのか?」




 ともかくこのままでは危ない事は確かだ。何とかしなければ、と考えた時、一つ俺に妙案が浮かんだ。話題を反らそう。




「俺からしたら、これだけでも有難いってのに。せめて携帯の待ち受けにしといて正解だったぜ」



「確かに可愛いとは思うけど、四夜の問題は性格だけじゃ無いぞ。それより……その銀色のトランシーバー見たいなのは何だ?随分と縦長だし変な突起物が有るけど……盗撮用のカメラか何かか?」



「盗撮用のカメラとは失敬な。時代の最先端アイテム!俺の新品携帯with四夜 一期さんの写真に何て事を言いやがるんだ。」




 そう言って彼が俺の目の前に突き出して来たのは、見た事も無いくらいに解像度の荒い写真の写った手のひらサイズの謎物体だった。



 それも、四夜の写真が写っているのは謎物体の上半分程度の小さなディスプレイだけ。



 後はぎっしりとボタンで埋め尽くされていた。




「それがか?ガラケーの癖に折り畳みも出来ないんだろ?どんだけ古いんだよ」




 俺にとっての携帯とはこんなにもチープな折り畳めないガラケーでは無い。

 スマートであり、5Gであり、全面有機ELのスクリーンで覆われた令和の技術の結晶美を象徴するスマートフォンだ。



 小さかった頃に母が使っていたピンク色のガラケーなら多少なりとも知っているが、それは俺にとって骨董品の様な物であり、ましてや折り畳みすら出来ない持ち運び式受話器など見たことも無かった。




「何ガラケーって?聞いた事もねぇ」



「ガラパゴス携帯。通称ガラケー。」



「ふーん。で、それよりさっきの続きを聞かせろよ!」




 ちっ、駄目だったか。


 周囲の目も一向に離れてくれない。




「知らねぇよ。俺はただ四夜をクラスまで運んで来ただけだ。詳しい事はあいつに聞くんだな」




 もう知ったこっちゃねぇ!


 朝遅れたのも、背負ってまでクラスに来たのも全部が全部四夜が原因じゃないか。


 後はせいぜい頑張るんだな。四夜 一期。





 俺はそそくさとウォークマンを取り出すと音楽を流して、外界からの干渉を完全にシャットアウトしたのだった。



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 後書き



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