第一章20 《奇天烈怪奇な歓迎会は突然に!》

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 現在の時刻はもう21時。

 普通の価値観をお持ちの誰もが、自身の部活寮で大人しくする時間帯である。

 だが、203号室にそんな常識は通用しない。



 現在進行形で何が起こっているかと言えば、それは如何にも奇天烈怪奇な夜会であった。






 薄暗いリビングの天井の中心からぶら下がった糸をカチッと言うまで引っ張る。

 チカチカと時折点滅する蛍光灯の橙色の光がこの狭いリビングの中央に設置された丸テーブルと、それを取り囲む俺達4人を仄かに照らす。



 そこには山の様に積み上げられたビールとポテトチップス、焼き鳥の缶詰などが無造作に置かれ、その隅っこに細々と子供様ビールなどと言うただのリンゴサイダーのビンが置かれていた。




「カンパァーイ! ではでは、新入部員の歓迎とバンド部の設立を兼ねて皆で祝おうじゃないか~♪」




 浅倉先生は満面の笑みでそう言うと、高々と銀色に輝くビール缶をテーブルの中央に向かって突き上げる。




「「「乾杯~」」」




 俺達も浅倉先生の勢いに気圧され、コップに並々と注いだビールモドキを一斉に先生の本物にぶつけた。




「ップハァー! やっぱりビールは最高だよね♪ ホラホラ~君達もグビッと飲み干したまえよ~♪」



「これ端から見たらマジでビールに見えるんだから、そう言う誤解を招く様な事言うの止めてくれよ! あんた教師だろ!?」




 俺の渾身のツッコミも何のその。

 聞いたか聞いてないかはっきり分からんあやふやな返事を返すと、すかさずビールに手を伸ばす。



 四夜と言えば乾杯を済ますとすぐに席から離れて、「どう言う事よ!テレビが付かない!」と文句を言いながらブラウン管を上からペシペシ叩いていた。



 四夜よ、そんなに乱暴に叩いたら壊れるんじゃないか? どうなっても俺は知らないからな。




「そう言えば先生、どうして僕の歓迎会をこんな時間にしたんですか」




 と、東先輩はその整ったイケメンな顔に疑問符を浮かべる。

 もっともな疑問だ。正直言って俺も四夜も分からん。

 こんな時間だが……あくまでも夜会であって夕食ではない。




 食事と言えば相変わらずなコンビニ弁当を数時間前に掻き込み済みだし、ちょっとした自己紹介もその時にちゃんとあった。



 その上でのこれだ。ちと過剰じゃなかろうか?




「夜にパァ~っと夜会をした方が盛り上がるじゃにゃいの! ムードだよムード♪」



「成る程、そう言う事ですか」




 と、神妙な面持ちで頷く東先輩。

 彼の膝の上では、真っ白な子猫が身を丸めて寝ていた。



 それで良いのかよっ! と俺は盛大に突っ込みを入れたい気持ちを抑えつつ、手元の缶切りで乱雑に開けられたお摘まみに箸を伸ばす。



 蓋に照り焼きと書かれたそれを口内に放り込めば、絶妙に甘じょっぱい旨味が広がる。

 食べている人間に酒飲みの気分を彷彿とさせるそれは、コンビニで買ったとは思えない程、実に美味しかった。



 ビールは飲めないけど……。



 テレビを叩いていた四夜はと言うと、何とかついたと満足気な表情で夜会の席に戻るとある事を聞いた。




「そう言えば先生。どうして東君が私のバンド部に入って来たの? まだ宣伝とかしてた覚え無いんだけど」




 そうだな。俺も非常に気になるから是非とも聞かせて頂きたい物だ。



 だがその前に一つ……言うべき事が俺にはある。




「よくもまぁ上級生相手にいきなり君付け出来たな」



「何よ。あんた以外にもあんたって言ったら誰が誰だか分からなくなるじゃない。そんな事も想像出来ない何て野鄙滑稽ね。バカ」




 俺が言いたいのはそう言う事じゃないんだが……もう何でも構わないさ。



 尚もこの夜会は続く。

 まだまだ始まったばかりだとでも言わんばかりの雰囲気で。


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