第一章19 《蛇足「その②」》

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「四夜ちゃんが倒れたって聞いて、先生真っ青になったから死ぬ気で飛んで来たよ!」




 などと腕をワキワキさせながら包容力の溢れ出す胸部を弾ませる。




「死ぬ気で飛んで来た割には遅いと思いますよ。ほら、後数分で昼休みが終るって嘆いている四夜が病気のフリをする為に布団に引き籠ってるじゃないですか」



「四夜ちゃん……先生ショックだよ! せっかくお見舞いに、と思って差し入れの焼そばパン買って来たのに!」




 先生がそう言って片手にぶら下げていたコンビニ袋の中身を残念そうにいじりだす。

 持って帰って職員室で食べようかな~とぼやいたその声を四夜は聞き逃がさなかった。



 それまで布団から出たがらない子供の様に頑なに頭まで被り続けていた掛け布団を勢い良くはね除ける。



 暑かったのか……それとも彼女が言いたがらないであろう別の理由か、少しピンク色に火照った顔でガバッと上半身を起こすと必死の表情で先生に訴えかける。




「そんな訳無いじゃない! 分かりやすい嘘に簡単に騙されないでよ!?」




 それとお腹が空いたので焼そばパンを食べさせて下さい、とおずおず頼む四夜を尻目に「本当に~?」と真偽の判断に悩んでいる。



 いやこの人マジで騙されてたのかよ。



 結局ヒナ鳥の様に口を開けて待つ四夜に、1口大にちぎった焼そばパンを笑顔でえずけする浅倉先生と言う何とも百合な展開になった。




「で、先生。俺の分は何処ですか?四夜に付き添っていたから何も食べて無いんですが」




 浅倉先生は残りのパンを無理矢理に四夜の小さな口にねじ込むと、あわてて生徒手帳を開く。




「そ……そうだ!二人に話す事が有るんだったわ♪」




 あからさまに話題を反らしやがった!




「俺の昼メシは忘れたんですか!? そんな……あ……あんまりですよ!」




 何だよレディーファーストかよ!

 俺は……四夜のこぼしたパン屑でもあさって食えってか?



 あ……あんまりだぁ……。



 等と俺が嘆いている間も浅倉先生は慌てて例の話をし始めた。




「入学当初から……四夜ちゃんがバンド部を作りたいって言う事は先生も知らされていたから顧問として部員の募集も掛けてあったんだけどね~。何と入りたいって言う人が見つかったの!」



「いつの間に顧問になってたんですか……。知りませんでしたよ! もしかして俺だけ……俺だけ知らずに203号室にいたの」



「あんふぁがふぉんはんははらひふはなはっはほよ、ははへ」

(あんたが鈍感だから気付かなかったのよ、バカね)




 パンで口を塞がれた四夜がもごもごと何か不思議な音を発していた。




「まず飲み込め。飲み込んでから喋れ!」




 近くにあったペットボトルのミネラルウォーターを渡すと、ゴクンッと焼そばパンを流し込む四夜。




「それで? 誰なのよそいつって」



「高校3年生のあずま 太一たいち君よっ♪ 知らない?先生達からも生徒からもとても人気なこの学校のエリート君よ」




 この時、俺と四夜の脳裏にさっきのテレビニュースの内容がよぎる。




「まさかそのあずま先輩って……政治家さんのご家庭の方ですか?」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る