第一章4 《203号室の身分制度は突然に!》
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同居。
それは一般的に人と人とが同じ屋根の下で暮らす事であり、大抵の場合は親子やカップルがそれを行う。
それにはお互いの信頼と硬い絆が大切であり、それが無ければ同居の成立などあり得ない。
なら、現在……俺の前で起こっている現象は一体何なのだろうか?
この外見ロリは、大して広くも無いリビングのど真ん中を1人で占拠して、ただひたすらにブラウン管テレビのチャンネルを回している。
それもかったるそうな顔をして、だ。
この人格不安定者は、俺達が荷物を運び入れ始めて1時間ほど経過してから仕事が終わったのかひょっこり203号室に現れた。
それからと言うもの冷蔵庫に予め装備しておいたらしい缶ビールをひたすらに開けている。
唯一の救いはタバコを吸わない事くらいだろうか?
もし吸おうとしたら、ここから速攻で追い出すが。
そして俺、
浅倉先生に備え付けのソファーを占領され、リビングのテレビとカーペットも全面的に四夜の勢力圏内。
現在荷物の運び入れで各個人の部屋が使用不能になっているので、俺の居場所などこの203号室には存在せず、玄関先の廊下で1人ポエムを描いているしか無かった。
唯一の俺の友達は、未来からの持ち込みを許可されたこのウォークマンとイヤホンだけ。
聞いている曲と言えば1989年に発売されたとあるCDに収録された『TOKYO 8月 サングラス』だ。
とまぁ、ここまで長々と前置きをした訳だが本題に入るにあたってそこまで重要な訳では無い。
今さらで悪いが聞き流して貰っても一向にかまわなかったぞ。
さて、俺は1人寂しく懐かしの音楽によって廊下でノスタルジーに浸っている自分に酔いしれていた訳だが、別に1人の時間を過ごす事が苦な訳では無い。
ただ、おかしいとは思わないだろうか?
一つ屋根の狭い空間でそれぞれが3者3様にお互いの無干渉を貫いているのだ。
信頼関係? 無いね。
硬い絆? そんな物、アメリア イアハートさんと一緒に大西洋の何処かに落として来たんじゃないか?
だからこそ、俺は思うのだ。
こんなの流石におかしいだろう、と。
別に誰とも話せないのが寂しい訳では無いし、SNSで誰とも繋がれない事にストレスを感じている訳でも無い。
この貼り詰めた戦場の様な雰囲気に限界を迎えた俺はウォークマンをしまうと、意を決して『ある物』を小脇に抱えてこの修羅場に斬り込んだ。
「なぁ、みんなでババ抜きをしようぜ!」
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「ルールは簡単。このババ抜きで、この203号室内の順位を決める。1位の奴は2位と3位に何でも命令出来るし、同じく2位の奴も3位の奴になら好きな様に命令出来る。」
ババ抜きをやろう等と唐突に言い出した俺は、元々会話の糸口が欲しかっただけだったのかも知れない。
「何よ……いきなり唐突な」
まあ、そうだろうな。俺も同感だ。
「そんな物を一体何処から持って来たのかな?山瀬君。それに先生めんどくさいわぁ。」
それも言うと思っていたぜ。だからあらかじめ大臣のバックに付いて国会答弁に備える官僚の様な気持ちで、この場を切り抜ける秘策も用意してある。
「これならさっき奥の寝室に置いてある衣装ダンスからたまたま発見しました。中身も確認しましたが、特に問題は無さそうです」
「でも先生はめんどくさいわぁ。二人で遊んだら?」
「私だってイヤよ!今……テレビで忙しいんだから」
ふ~ん、そうか。なら先ずは
「こうだ!」
作戦その1、ちょうど足元にあるブラウン管テレビの繋がった延長コードを引っこ抜く。
これでテレビは沈黙だ。
「あぁっ!? 何するのよバカ! 返しなさいって!」
慌てて四夜が掴み掛かって来るが、何せこのロリっ子は文字通り背が低い。
「このっ、このっ、返せ泥棒!間抜け!バカ!うーん……顔面ゴリラ!」
「おい、鏡を持ってこい。心配になるじゃねぇか」
だがまぁ、いくら四夜が俺を罵倒しようが、これだけの圧倒的な優位性があれば負け惜しみにしか聞こえない。
後は延長コードを頭の上に掲げて仕舞えば、いくら四夜が背伸びをしようがジャンプをしようが決して届かない!
「そうだ、先生~。確か校内って飲酒厳禁でしたよね」
「でも、ここは部活寮ぉ~♪ 部員の所有物として扱われるから、自然発生的な校内の治外法権なのよ? 担当顧問である先生の一存によってのみまさかれるのです!」
「残念でしたね……先生。そのルールは203号室では適用範囲外です」
「にょえっ!?」
作戦その2、相変わらずぴょんぴょんと跳び跳ねる四夜を適当に交わしながら、俺はルールの穴を突く。
これこそ始めに言っていた秘策だ。
「治外法権が適用されるのは、そこが部活寮だった場合に限ります。しかし、このルームには現在如何なる部活も入って居ません。と言う事は、203号室はまだどの部活にも属していない完璧な学校の所有地です。だから飲酒もバレたらヤバいんじゃないですか?」
「た……確かにまだ部活寮じゃ無かったわね……」とまるでこれから部活寮になる予定でもある様に言いながら、飲みかけの缶ビールを震える手でフローリングの敷かれた床に置く。
そしてソファーから急に立ち上がった先生は俺と四夜の方を向いた。
「そ……そう言う事じゃ仕方ないわねぇ。先生はその勝負に乗るわよ!」
後々、浅倉先生から聞かれる事になるが、入学仕立ての俺がどうして校則に通じていたのかは、いずれ語る事になる。
「四夜ちゃんも参加しなさい?じゃないと~成績を『1』にしちゃうぞぉ♪」
「……!?そんなぁ……」
このダメ教師、保身の為にいとも容易く生徒を売りやがった。
この時の四夜の心情は語るまでもあるまい。
飼い主に捨てられた子猫の様な、こいつの青ざめた顔は今でも忘れられないさ。
まぁそうだろうな。正直俺も浅倉先生の移り身の速さには絶句した。
「さぁ集まれぇい!ヤると決まったらさっさとヤるわよ!何が何でも、このビール達だけは守り切って見せるんだからっ♪」
↓23分後
《結果》
1.浅倉 富子先生
2.四夜イチゴ
3.『奴隷』(山瀬 涼太)
最初のお達しとして、四夜と『奴隷』には夜ご飯の買い出しが命令された。
「大人気ねぇ………」by 山瀬 涼太
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