第一章29 《終末のエトセトラ》
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放課後になっても戻ってくる事の無かった四夜と水城さんを、俺達バンド部員は手分けして探す事になった。
だが、探索は一向に進まず、遂にお天道様も脱落してきやがった。
203号室で一度合流した俺達は、遂に学校の外も探す事になった。
「しかし困りましたね。部長殿も水城さんもこの学校内に居ないとなれば何処を探せば良いのでしょう……」
「警察に相談したらどうかな?そしたらきっと二人だって見つかるわよ♪」
「ちょっと待って下さい。水城さんは分かんないですけど、まだ一ヶ所だけ思い当たる場所が有るんです」
東先輩と浅倉先生のすがる様な目線が俺に集まるのが分かった。
こういう時にズバリ居場所を当てる奴はイケメンのハーレム主人公に限る。俗に言う主人公補正って奴さ。
だが考えて見てほしい。俺は本来そう言う眩しい奴らの死角で、ひっそりと生を謳歌するくらいが丁度良い男だ。事実、俺が提案した事だって正しい保証など、何も無い。
むしろ、現実逃避の末の妄想に近しい物かも知れないのだ。
そうなのだと説明しても、二人は俺の事を期待していると言って送り出した。
「先生と東ッチは交番に相談してくるから、四夜ちゃんを見つけたらポケベルで教えて」
俺は203号室を走って飛び出した。
いたたまれなかったのだ。
ちっぽけなプライドで保身にはしる自分の有り様が。
「四夜! どこにいるんだ四夜!」
全力で走った。そうしていると、この時代に来た理由も、すべき義務も忘れてこの時代に翻弄されている自分が少しでも薄れて見え辛くなるのだ。
体の良い逃げだとわかっている。それに四夜を利用していると言うクソ見たいな自分自身の愚かさも理解している。
それでも、今の俺にはこうするしか他に手が無いのだ。
借りれると言うのなら猫の手でも何でも構わないさ。
「困っているようだぁね、山瀬 涼太」
だが、現実は決して手放してなどくれなかった。
「お前が……どうしてここに」
息を切らし、走る勢いそのままに特別教室塔の階段をかけ登っていたその時、音楽室のある最上階一歩手前。5階の踊薄暗いり場に、男は蛍光灯の青白い光に照らされて立っていた。
その見た目、その喋り方、全てにおいて常軌を逸っしたこの異端者の存在を、忘れられるはずも無かった。
「相変わらず、その気持ち悪い仮面は外さないんだな……。タイムキーパー」
俺を過去へと送った張本人。
All humanity ravenstvo congress(全人類平等議会)
通称Ahrc、アークとタイムキーパーは呼称していた。そこの自称営業マンだそうだ。
「んっふふ。そうかい?」
「ああ。そのピッシリ着こなしたタキシード姿に能の仮面を選ぶあたり理解不能だ。そのミスマッチ具合が最高に気持ち悪いぜ」
「んふぅー。理解……不能、ミスマッチ。これ以上無い褒め言葉だぁよ」
「訂正、お前のハッシュタグに『変質者』ってワードも付け加え無きゃな。其れより、何の目的でこの時代にタイムトラベルして来た」
「もぉくてき?」
「ああそうだ。始めにお前と契約した時には、被験者に対する接触はしない方針だって言っていたじゃないか。タイムキーパー」
「簡単な事さぁ。君に……警告しに来たんだぁよ」
「警告……?」
「ボクぁ親切だからねぇ。わざわざ教えに来てあぁげたのさ」
「それはどうも、それより今の俺にはそこそこ重要なミッションがかかっているんだ。家出不良のロリっ子部長を早く見付けてやらにゃ、後で何が起きるか分かった物じゃない。だから話は後でな……」
階段に足をかけ、タイムキーパーの横を通り過ぎざまに言ったその時……
「その少女の事だぁよ」
タイムキーパーは得体の知れない不気味な能面でこちらを覗き込む様にそう言って来たのだ。
背後でチカチカと音を立てながら点滅する白熱灯が、より一層この男の無気味さを際立たせていた。
その言葉と共に。
「知ってるのか!?」
「当然だぁとも。何せ、事象は収束するかぁらね。未来だった出来事は既にこの世界線では決定し、過ぎ去っているのさぁ」
「何処にいるんだ。知ってるなら教えてくれ」
「教えるのは場所じゃなぁい。今から起きる事の断片だぁよ。それに場所なぁらもう分かっているじゃなぁいか」
俺は少しうつ向くと、信じていなかった可能性を口にする。
「音楽室……」
するとタイムキーパーは懐中時計を取り出してこう言った。
「あと3分。君と少女との接触をトリガーにしてこの世界線はぁ収束する。どぉうやら今回の君は選択を誤ったらぁしい」
タイムキーパーの言葉に俺が呆然としていると、立ち尽くす俺の肩をポンと叩く。
「時間は有限だぁよ。急ぎたまえ。あぁそれと一つ言い忘れていた。タイムトラベラーは君だけじゃなぁい。話はそれだけだ」
「話はって……おい待て。何処に行った!」
タイムキーパーは言いたい事だけ言い終わると、もうここに用は無いとでも言いたげな様子で、闇に溶ける様に気が付けば消えて居た。
「何だったんだよ……一体」
俺はもう一度走り出した。非常口へと誘う緑色のライトだけが真っ暗な特別教室塔の廊下を照らしている。
走る自分の足音だけがうっすらと響いていたこの場所に、何か別の音が漂って来た。
立ち止まると、周囲を見回す。
「何だ、この音は」
通路を曲がった先に一ヵ所だけドアが開いて、内側から光がこぼれ出ている箇所があった。
音はそこから聞こえて来る。
「音楽室から……聴こえる……のか?」
突き上げて来る衝動に、追い立てられる気分だ。
気が付けば足が勝手に動いていて、まるで自分の意思じゃ無いかの様に思えた。
ドアとの距離が近くなって行くに連れて、ハッキリとその音が識別出来る様になってきた。
「オルゴールの音……しかも聞いた事がある……」
オルゴールの優しい音色で奏でられているその曲は、確かもっと……悲しい歌だったはずだ。
そう、愛が重労働に変わる様なシステムを、胸にインストールされている誰かの……。
荒い息を吐き、たどり着いた勢いで思い切りドアを開け放った。
そして俺は、すぐ異変に気が付いた。
唯一明るいこの音楽室の中心に据え置かれているグランドピアノに、ピチャピチャと何かの水滴が滴って来ていたのだ。
「雨漏りか?」
オルゴールの音に誘われ、上を見上げた……その瞬間、俺の中で時が凍った。
「ぁ……ぁ……ぁ……っ」
そこに、彼女は居た。
否、彼女だったナニカが……この部屋の天井に居た。
死後硬直を起こして固くなったその右手に、赤い血の滴るオルゴールを握り締めたまま。
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後書き
本小説は完全な鬱作品です。今までの雰囲気は全部幻想の様な物だったので……。
まぁこれからも、この作品をどうぞ宜しくお願い致します。
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