第二章38 《核心》

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「一つ聞かせて欲しいんだけど、あなたにとってこの会話は何度目なの?」


「____は?」



 真剣な表情で、彼女の放った問い掛けが俺には理解出来なかった。

 その言い方では、あたかも俺がタイムトラベラーであると言う事を水城あずさ と言うこの時代の人間に知られている事になる。

 それはタイムキーパーとの間で交わされた契約の違反に他ならない。


 だが、例え彼女が俺と同じタイムトラベラーであったとしても、それはそれで大問題でしかない。


 考えても見ろ、相手は2度に渡って四夜を惨殺している可能性すら考えられる手合いなんだぞ。

 それがどう言う事を意味するのか、分からない程馬鹿な俺では無い。



「質問に対して質問で重ねること事態、あまり良いとは言えないが。そもそも、その質問の意図が理解しかねるな」


「今更になって自分の事は誤魔化すの?私にはあれだけ、ストレートな事を聞いてきたのに」


「それはっ……」



 くそっ、まんまと一本取られてしまった。

 視線を反らし、焦りを悟らせまいと空しい努力はしてみるが、彼女は会話の最中こちらが瞳に浮かべた一瞬の焦りも見逃しはしなかった。



「落ち着いて考えて見たらどう?普通あんな事を聞かれたら、『そういう事』だと思って良いと、そう受け取らないかしら?」


「何が言いたい……」


「ならもう一度聞き直すわ。あなたにとって、このやり取りは何度目なの? まさか今回が初めてだなんて、言わないわよね」


「いやっ……まず答えるべきはそっちだろ! 先に質問を投げ掛けたのは俺だ。なら順番通りに会話を進めるのが筋って奴じゃないか!」


「いきなり怒鳴らないでよ……」



 水城はそう言うと、まるで俺を怖がるかのような仕草で急に汐らしくなる。

 その演技じみた行動が、燻っていた火種に油を注ぐが如く、余計に俺を激昂させる。



「怒鳴らないでだと……。そんな事出来る訳が無いだろ! 四__あいつが殺されたんだぞ! 無残に、残酷に、それも2度も!」



 一度、堰を切った様に溢れだしたら、もう止まる事など無い。

 それまで溜め込んでいた震える程の怒りが、決壊したダムの様に溢れだし自分自身でも制御が効かなくなっていくのが分かった。


 怒髪天の如く突き上げる衝動のままに、ベッドの端にちょこんと腰を掛けていた彼女に詰め寄ると、胸ぐらを引っ掴み、顔と顔がぶつかりそうな程の至近距離で怒鳴りつける。



「ああ無駄だったさ、こんな事を聞く事自体がな! お前は俺と同じタイムトラベラーで、あんな酷い事をして四夜を……四夜を苦しめてぇ__殺したのもお前何だろっ! 大人しく認めろ! もう証拠は上がってるんだぞ!」


「ちょっと離して……」


「いいや離さない! 数え上げてやろうか? お前が犯人だと言う動かぬ証拠の数々を!」



 頬に熱い一筋の涙が伝っていくのが分かる。



「先ず一つに、初めて四夜が行方を眩ました周回で、お前もまた行方がわからなくなっていた。それは2周目からも同じだった。何故行方が分からなくなっていたかは簡単だ……四夜を誘拐し、犯行に及んでいたからだろう! 次に、前回の周回が終わる直前に俺は犯人と数秒だが接触した。その時奴の声を聞いたんだが、それは俺やお前と同い年くらいの女性の声だった。そして何より……」



 ベッドの端を掴むプルプルと震えている情けない自らの手を今一度握りしめる。

 こいつだけは……こいつだけは許してはいけないのだ。

 言えば核心に触れると分かっていて俺は、覚悟を決める。



「犯人の髪色は、お前と同じ青い見た目をしていた」


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