第二章39 《現存在のあなたへ》
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「なるほど……そういう事だったのね」
この瞬間、水城の目は深くぬかるんだ泥濘の如き有り様だった。
もううんざりだとでも言いたげな物憂い表情を浮かべると、長い……とても長い溜息を一つつく。
すると
「あ~ぁ全く……もう最悪っ! 私たちの会話は全部盗聴されているのに、ここで私が否定したら全部バレちゃうじゃない!」
「は……? バレるって何だよ。盗聴……? 一体何、訳分からん事を話していやがる。犯人はお前じゃないか!」
すると彼女は凡そ平均値の少女の筋力で成せる技とは思えない力で俺をベッドへ突き飛ばす。
掴んでいた手はとてつもない握力で強制的に剥がされ、俺は為すすべも無かった。
そして、衝撃吸収材としては機能不全も甚だしく、人間社会なら容赦無くリストラされるべきであろう固い布地に、再び迎えられる。
ミシリ……
と言う不穏な音と、その低反発バネの先端が背中から腰にかけて一面に突き刺痛みが広がる。
「な……何をしやがるんだ!」
「勝手に激しい思い込みを膨らませている様だけど、あなたの言ってる事、大半は間違いよ。私は犯人じゃない」
いい加減にして欲しいわ、とでも言った所か?
彼女は如何にも不満気な表情で口元をへの字に曲げる。
「何を……言ってやがる……。これだけの証拠があってお前は、それでもまだしらを切る気か!」
「あなたこそ、いつまで私に言い掛かりを押し付ける気なの? そんなに文句が有るならこれをみてよ!」
そう勢いを付けて彼女は言い切ると、唐突に自分自身の首元のシャツのボタンを外し始めた。
だんだんとシャツのボタンは上から下へと外れて行き、気が付けばピンク色のブラに包まれた純白の双峰が露になる。
その光景は余りにも魅惑的で、彼女の燃えたぎる様な谷間を見ていると、瞬間的に本能を揺さぶるような衝撃に襲われた事は否定出来なかった。
「なっ……いきなり何を!?」
「いいからここを良くここを見て!」
彼女は鋭い口調でそう言うと、鎖骨と鎖骨の間から少し下の部分を指差す。
そこには……
【5】
とだけかかれた黒い機械質な数字が浮かび上がっていた。
まるで焼き印の様に肌に浮かび上がったその刻印に、俺は見覚えがあった。
「タイム……トラベルの回数……」
この刻印は、どういう訳かタイムトラベルを自身で起こす時にその回数が浮かび上がる様になっている。
だから、同じように【1】とかかれた刻印が俺の肩に刻まれているのは、この時代に来た時からわかっていた。
逆に言えば、彼女の胸元に刻まれた回数が、何を意味しているかと言う事も。
既に水城あずさ が、この時代に来る事意外を目的とした事にタイムトラベルを浪費していたのだろう。
と……言う事は
「もう気がついたかしら?」
「え……」
彼女……水城あずさ は真剣な面持ちで、唇を固く引き結ぶと
「四夜イチゴの死を無かった事にする為に、あの世界線の全てのタイムトラベラーの記憶だけを、山瀬涼太ごとコピーして、別のパラレルワールドに上書きしていたのが、私だって」
「じゃあ……」
「ええ、犯人は私じゃない。あなたも経験しているでしょう? 私が犯人の犯行を妨げる為に行った、擬似的なタイムトラベルを」
今まで原因不明として後回しにしていた強制的なタイムトラベルは、水城あずさ が起こしていたと言うのか。
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