第二章37 《ダウト》
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約17年間を生きて来た俺としては、目覚めの感覚ほど不愉快な瞬間は無いと常々思っている。
それがまだ、ふかふかのベッドなら変に首回りや腰回りが痛くなったりしないぶん素直に起きられるのだが。
少し首を傾けると、負荷がかかっていた首の骨から
バキッ
と嫌な音が響く。
寝返りを打つだけでベッドはギイコギイコと不快な音を奏でた。
所々、ベッドに反発素材として仕込まれているバネの先端が、クッション不足か、制服ごしに体に刺ささって痛い。
「そのうえ枕は薄っぺらいし。このベッドには体調不良者を労る気概が欠けているんじゃないか?」
肘を支えに体を起こし、惰眠から覚めた恨み節をベッドにぶつけていると。
「起きたんですか?」
「お……お前は」
更に少し上体を起こすと、足元のベッドの縁に、一人の淡い水色の髪の少女が座っていた。
少女は少し含む所が有るような声音で、
「一応初対面のはずですよ? なのに、いきなり『お前』呼ばわりはいくらなんでも失礼だと思います」
俺の言葉に不満気な表情を浮かべる少女は、ぷっくりと少し頬を膨らませる。
外見に見合わぬ幼げな仕草に、俺はどうしてか違和感を覚えていた。
「君は……」
「じゃあもう一度。はじめまして、私の名前は水城あずさ って言うの」
そう言えば、何処かで見たことがある外見をしていると思ったら、少し前にエイトイレブンで、四夜と見たスポーツ雑誌に特集されていた美少女じゃないか。
年は同い年位かとは思っていたが、まさか同じ学校だとは、驚きを隠せない。
「やっぱり……もう知ってる、って目ね」
「あ……ああ。俺の予想が当たってるなら、有名人だろうか____________ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁあああああああああああああああああああああああ!?」
彼女の事を思い出していると、後頭部から脳天に駆けて、余りにも耐え難い激痛が駆け巡る。
痛い!
直感的にこの激痛はヤバい類いの物だと、これまで露ぞ役に立たなかった本能が、珍しく警報を鳴らしている。
思考の全ては激痛に支配され、余りにも痛くて痛い痛い、考えが纏まらなくて痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い、そう言えば俺はどうしてタイムトラベルを痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いいたいいたいいたいいたい、そうだ俺は四夜を助け様としていたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい、誰かに襲われていたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい、そいつは『青い毛』の____________!?。
スッと何事も無かったかの様に頭痛が引いていく。
「あ______は?」
頭を抱え込み頭皮を両手でまさぐるが、痛みを覚える箇所は見当たらない。
そして、変化は頭痛の鎮静化にとどまる物では無かった。
ふと俺は前方水城あずさ をみやるが、彼女は至って平然とした雰囲気で静かにこちらの様子を伺っていた。
「そうだ……俺は……」
チラリと、目端に映った『青い毛』を思い出す。
あれは確か、前回の周回で四夜を殺した犯人をつきとめる為に待ち伏せている時の出来事だったはず。
俺はあの時、何者かに嵌められて背後からスタンガンをうなじに食らったはずだ。
『二度も……邪魔はさせない』
奴が最後に残していた意味深な言葉が、妙に引っ掛かっていた。
そう、その声質は至って普通の少女の物で……例えるなら
まるで目の前にいる、水城あずさ の様な声だった。
彼女……水城あずさ は特徴的な薄く淡い青の髪色をしている。
考え直してみれば、そもそも最初に四夜が行方不明になった時、時を同じくして水城あずさ も行方が分からなくなっていた。
「嘘……だろ……」
頭の中で、これまで謎に包まれた多くの事象の断片がパズルのピースのように一つ一つ填まって行くのが分かる。
目の前で柔和な笑みを浮かべ続けている水城あずさ がこの瞬間、初めて恐ろしいと思えた。
だが、そんな筈はないと考えを巡らせば巡らす程、仮定に過ぎなかった物は確信へと変貌していく。
「答えろ……水城あずさ。今、四夜イチゴは何処にいる?」
「言って無かったかしら。購買よ」
タイムキーパーが以前に言っていたタイムトラベラーは一人とは限らないと言う言葉が正しいのなら……
俺は固唾を飲み下すと意を決して核心に踏み込む事にした。
「なら聞き方を正す」
静かに頷く彼女に俺は問いかけた。
「お前なのか……?二度にも渡って四夜を殺した犯人は」
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