第一章3 《年数単位の時差は突然に!》

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 ガタンッ……ガタンッゴトン………


 私立 学園都市大学 付属高校の敷地はとてつもなく広大だ。


 何と学校の敷地内に都営 四田線だって走っている。


 東京の中心地からは少しは外れているが、その所有面積は余りにも広大で、中学校から大学までその敷地内部に全てすっぽり収まっているのだ。


 俺達が暮らす事になった部活寮も当然この敷地内部にいくつも有る。


 だが、俺達が向かっている203号室とやらは、その中でも一番端の最上階に位置し、常に真横を電車が走り抜けていると言う、とんでも無い不良物件であった。


 最上階と言ってもちんけな事に、煤やらヒビやら汚れやらが目立つ、こじんまりとした2階立てのアパートなのだが。



「あぁ~あ」



 言われた通りに来てしまった。


 本当に203号室だよね、ここ。



「何よ、そのため息。文句でもあるの?バカ」



 当然だ。有るに決まっているだろうよ!

 確かに四夜の顔は良い。スタイルだって悪くない。


 だが共同生活を送るには、性格に些か難が有りすぎだ。


「なら四夜よつやは文句無いのかよ?」


「バカ!何を笑止千万な事言ってる訳?色々と文句有るに決まってるじゃない。このバカ!」


「会話の頭と尻でいちいちバカバカ言うんじゃありません!」



 バカって言う方がバカ何です~と言ってやりたい気分ではあるが、そう言って仕舞えば自分までバカになると気が付いたのは小学生のいつ頃だっただろうか?

 当時のちっちゃかった俺としては、賢しくも校内の気に入らない派閥の連中にイチャモンを吹っかけて挙句言い負かしていたのだが、そうやって同学年以下ばかりに嫌がらせをしていると、当時の小学生連中が使っていた煽り文句がどれ程中途半端で、最悪の場合ブーメランにもなり得る物なのかと言う悲しい事実を、否応なしに悟らされる羽目になった。


 その頃だったかも知れない。同級生達との下らない会話に嫌気がさし、日々の家事と勉強以外ではネットやSNSばかりに入り浸る実に根暗なインキャのチー牛へと下降気味の覚醒を果たしたのは。

 未だにその癖は抜けず、何か気に食わない事があると


 今すぐこのふざけた状況をツミッターにでも愚痴りたい。


 と、思わずいつもの癖でズボンのポケットに右手を突っ込んだ所で、ふと思い出す。



「今は………1994年か…」



 当然、こんな大昔にツミッター何て有りはしないし、そもそもスマホがまだ世に出て来ていない。


 いや、ツミッターに限らずpcを媒介にした2チャンのようなネット掲示板くらいならあるかも知れないが、そんな事まで俺には分からん


 何て言ったって……俺は、この時代の人間では無いのだから。



「ソ連ってまだ存在したっけ?」


「あんた何を変な事言ってるのよ。3年前に崩壊したじゃない」



 と、まぁこんな感じでさっぱりだ。


 がしかし、ソ連の崩壊は1991年だったとするとバブルも既に崩壊してる事になるな。


 ちぇっ、この野郎!


 せっかく平成の初期にタイムスリップしてきたのだから……少しはアゲアゲピーポーとかディスコで頭空っぽにして踊り狂うるパリピを満喫してみたかったんだが、残念だ。

 あ、アゲアゲピーポーは違ったか。



「そんな事より荷物を部屋に運び入れるの手伝いなさいよ! 先生の分だってあるのよ!」



 そう! あの浅倉とか言う頭脳残念系女性教師は、一緒に同居するとかほざいていたのだ。

 いやまあ……落ち着いて考えれば当然どころか浅倉あさくら先生に任せる辺り、全く管理が行き届いていないと言うべきなのだろうが。



『まさか~教師の監督無しで、高校2年の男女を同じ屋根の下に寝かせるとでも思ったのかい?ハッハッハ~若いねぇ諸君!そんな事を学校が許す筈も無かろうて!』



 そしてまた、こうも言っていた。



『もし、コウノトリが飛んで来たら山瀬やませ君はどうする積もりだったのかな?若気の至りってのは、油断している男女こそ陥り易い物なのです!と、言う訳で…先生の荷物もそこに有るから宜しく頼むわよ♪』



 そう言って浅倉あさくら先生は、職員室の端に山の様に積まれた荷物を無慈悲にも指差したのだった……。



 ざっけんな!自分で荷物運びたく無いだけだろ!


 ……て言うか若気の至り何て起きねぇし。

 そんな非現実的かつ小説やマンガの様な出来事はもうお腹いっぱいだ。


 起きる訳がねぇ………



「早く運んでよね!バカ!」


「はいはい」



 窓から射す太陽の光だけが、ほんのりと薄暗いリビングで腰に両手を当ててご立腹の四夜 一期を照らす。


 でもやっぱり、無駄に可愛い四夜よつやを見ていたら少しくらい……間違いが起きても良いんじゃないか?

 と、思ってしまう情けない俺が居たのは、不本意ながらも事実だった。



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