第一章24 《32年越しの再会はどこか寂漠と》

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 未だに俺と四夜が付き合ってると思い込んでるこのクラスの連中の頭蓋の内部には、ピンク色の脳内フローラでも広がってるんじゃないか、等と下らない思案を巡らせる事……およそ30分。



 浅倉先生の騒がしいHRも無事終わり、クラス中のジト目に晒され続けるクソッタレな10分休憩にも大分慣れて来た頃合い。

 昨日までは唯一空席だった最もドアに近い最も後ろの席にとある美少女が座っていたのだ。



 そいつは知らない筈の美少女だったが、確かに何処かで見た事のある顔なのだ。



 分からない……あの目鼻立ち、あのモデルの様な理想的スタイル、座っているだけでも一度見たら忘れなさそうな美貌を振り撒いているんだがね。



 俺の後ろの席で剣呑な視線を周囲に振り撒く四夜もどうやら同じ事を考えているらしい。




「あんな娘いたかしら?ねえファーは覚えてる?」



「丁度俺も考えていた所何だが……昨日までは確かに居なかったはずだ。でも何処かで見た事あると思わないか?」



「ファーと同感なんて癪だけど……そうね。私もどっかであの娘の事を知ってた気がする」




 俺はとある事を思い付く。




「そうだ、こう言う時こそ"役立たずの村田むらた"を有効活用すべきだと思わないか?あの女好きなら何かしら知ってるだろ」



「妙案ね。奴隷の癖によく考えたじゃない。私も……"盗撮魔の村田むらた"なら何か知っててもおかしく無いと思うわ」




 それまで机に突っ伏したまま……無為な時間を浪費していただけの村田むらた つばさはガバッと音を立てて机から上半身を起こすと、何とも言い難い惨めな表情で俺達に突っかかって来た。




「お……お前ら……黙って聞いてれば人の事を"役立たず"だの"盗撮魔"だの好き放題言ってくれやがってぇ!?」



「何だ? 俺が四夜に連行される時も白眼剥いて助けてくれなかった"穀潰しの村田むらた"さんよぉ」



「何よ? 許可も取らずに勝手に私の写真撮っておいて。"性欲絶倫の村田"に人権何て無いわよ? 後でしっかり代金の250ドル払ってよね」




 頭を抱えて大袈裟に項垂れる村田に一瞥をくれると、さっさと話を戻す。

 つもりだった……。




「二人とも村田君をいじめ過ぎよ。まったくもぅ……」



藤原ふじわら委員長」




 教室の端までわざわざ足を運んでやって来たのは、整った顔立ちと青いロングが特徴的なこのクラスの優等生……藤原ふじわら委員長だった。




「楽しそうに何の話をしていたの? やっぱり水城みずきさんの事?」



「ああ。そうなんだけど……ってあの人、水城みずきさんって言うのか。ふーん……え?」




 水城……水城って……




「まっ……まさか!」




 この時俺は初日に四夜と夕飯の買い出しに行ったコンビニでの一幕を思い出した。


 そう、あの選手生命喪失と言うスポーツ雑誌の記事で大々的に報道されていた水城みずき 梓橋あずさ選手その人だったのだ。




「多分だが、その"まさか"で当たってるぜ?ファーのくそったれ」




 成る程、話が掴めて来たとそう思っていた俺達の中で、唯一話の流れについていけない鈍感な奴がいた。




「ちょっと……何あんたらだけで勝手に話を進めてるのよ。はっ倒すわよ!」



「落ち着けって四夜。一昨日のコンビニで見たスポーツ誌を覚えてるか? あの水城みずき 梓橋あずさ選手だよ。多分……」




 四夜も頭の中で情報が合致したらしくハッとした表情を見せたが、即座に首を降ってそれを否定する。




「そ……そんなまさか。この学校に通っていた事も驚きだけど、だって彼女は18歳でしょ。高校3年生のはずじゃない。この教室に居る訳が無いわ」




 四夜の言う通り本来ならばここに居る筈のない存在だ。

 だが、どうしてか幻影ならざる彼女は本当にこの教室に自身の座席を設けている。



 それにあれだけの圧倒的美貌は……一度見たら絶対に忘れる筈がない。だからこそ言えるのだ。



 確実に雑誌のスクープで見た水城みずき 梓橋あずさ選手その人だ、と。




「噂によるとだけどね、彼女……どういう訳か留年したらしいのよ」



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