第一章23 《不相応な勇姿は特別に!》
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さてさて、今日も今日とて背中に四夜の羽根の様に軽い華奢な体躯と、憎たらしい温もりを感じながら蒼天の元、張り付いたような桜並木の下を走り抜けていた。
何処の古代エジプト人とやらが発明したか知らないし、知りたくも無いが、彼らが祖として発明しやがった時計なる不都合な物体のお陰で、現代人は非常にくるしめられているんだ。
と……まあ本来は四夜に向けるべきであった俺のただならぬ不満を、偉大なる古代人に八つ当たりする事で、致し方無く己の飲流を下げる事に成功していたのだが、
「お二方とも大丈夫でしょうか? このままでは学校のHRに遅刻してしまいます。やはり荷物以外にも何か僕が……」
「大丈夫! 東君まで巻き込む訳にも行かないから。ファーは私の奴隷、兼部下何だしこれくらいさせて当然よ」
そう言うと四夜はぬくぬくと俺の背中の上で身動きをする。
頼むから俺が変な気を起こす前にやめてくれないか?
多少の女性らしさを感じる苺の様な甘い芳香が、四夜の動く度にほんのりと俺の鼻腔を刺激するんだ。
それのみに止まらず、制服ごしの背中に感じる不自然な柔らかさも、必要以上に際立って感じる!
大して大きくもない癖に、こう言う時だけ無意識に主張しやがって……チクショウ!
まるで……あいつ見たいだと俺は昔の事を思い出していた。
そんな俺の思春期男児たる……至って正当な葛藤など露ほども知らぬ我らが部長は、向日葵さえ眩しさに平服せざる終えないであろう100万ボルトのスマイルで前のみをじっと見つめると、ビシッと右腕を前方に伸ばしGOサインを自ら体現する。
「もっと早く走りるのよ! ファーと言う二つ名に相応しい勇姿を私に見せて見なさいっ!」
「昨日まではあんなに恥ずかしがってた癖に随分と殊勝なこった。覚えてるか? 『「絶対の……絶対に覚えてなさいよ!』とか言って顔真っ赤にしてたお前は何処だ?なぁ、四夜さんよぉ」
「うっさいわね! はっ倒すわよ、このバカッ!?」
四夜はジタバタと背中の上で暴れだした。
「ちょっ……おい、ヤメロ! 背中の上で暴れたら倒れるぞ!? このまま仰向けに倒れたら、俺が苦労してセッティングした、お前の髪の毛がぐちゃぐちゃになるだろっ!」
「ちょっ……倒れるならファーが下敷きになりなさいよ! 私にケガさせる気?」
「だったら暴れんなよっ!?」
俺と四夜がうだうだといがみ合う様を見て何が面白いのか、知らないし、全くもって理解しかねるね。
が、少し桜散るゴールデンロードの先で東先輩は昨日と変わらぬ優しげなイケメンスマイルを振り撒いていた。
きっと世の中のマトモで健全な女性ならば、一目で恋に落ちてしまうであろう悩殺スマイルだ。
全く、顔面偏差値に恵まれたご人が羨ましい限りだ。
一度微笑むだけで世の中の大半の女性がホイホイ付いて行ってしまいそうなのだから実に妬ましい、ああ憎たらしい。
せめてこっち見て笑うな!嘲笑されている気分だ。
「本当に山瀬君と四夜さんのお二方は仲が宜しいですね。少し嫉妬してしまいますよ」
「冗談は止めて下さい……。そんな事言うなら今すぐ俺と代わって貰いたい位ですよ。次いでにクリストファーの二つ名もプレゼントしましょう。オマケ付き特別セールですぜ?」
「何て勝手な事を言ってるのよ、ファー!」
「それは遠慮させて頂くよ」
この瞬間が憎たらしくも、少し楽しかった事は否定しないでおこう。
だが、その時は気が付かなかった。
校舎前の庇屋根の影で、こっそり俺達を見つめている、もう一人の美少女が居たことに。
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