第一章27 《忘却のノスタルジアは突然に!》
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「それで? さっきは水城さんと何を楽しそうに話してた訳?」
数分前に購買で買って来たばかりのピクニックの苺オレを片手に、普段よりも幾許かツンとした雰囲気を強く醸し出している四夜は、その大きな目端をつり上がらせ、艶やかな唇をアヒルの様にすぼめる器用な表情で俺を見つめて来やがる。
今は丁度高校校舎3階の高校2年生フロアにある最後の掲示板にポスターを張り付けている最中だった。
「別に……ただ呼び止められらだけさ」
「その割には、さっきから心ここに有らずって顔よ。一体何を気にしてるの……と言うか本当は何を話していたのよ。さっさと教えなさい」
「何を、か……。ああ、何か凄く気になる事を言っていたんだ」
「何かって何よ? 釈然としないわね」
「何かは何かなんだ。だって何て言っていたのか聞き取れなかったんだよ。でも……多分大事な事だった気がする」
「はあ? 意味分からないんだけど。それの何処が大事な事なのよ。やっぱりファーってバカなの?」
バカバカうるせぇとしっかりツッコミは忘れず、しかしながら随分と指事語だらけの分かり辛い言葉を交わしていた俺と四夜は、お互いに顔を背けると作業の手を止める。
「さっきは四夜と話してて良く聞こえなかったけど……確かに水城さんは何か言ってたんだよ。それが気になって」
二人して、本来の目的も忘れその場に立ち尽くしていると、誰かが俺と四夜を呼ぶ声がした。
「大変でしたら手伝いましょうか?」
「東先輩! 」
「手伝ってくれるの?」
すると彼……東先輩は一般女性が見たら簡単に恋に落ちてしまう様なエンジェルスマイルで答える。
そんな高貴な物を俺達に向けては勿体ないだろうに。
「僕とて四夜 一期さんの部下であり、同じバンド部のメンバーです。本来であれば献身的にサポートをしたいと思っていたのに、今朝も遂に出来ず仕舞いで僕自身の無力さを痛感していたのですから。この様な機会を逃す手などありません」
そう思っていたのなら何故、朝の四夜のお世話を代わってくれなかったんだ?と訪ねてみた。
あれこそ四夜の手下にされた俺の一番の重労働であり、最も誰かの手が借りたい事であると言うのに。
「それを僕の口から言うのは無粋だと思いますが。 そんな事を聞く何て、まさか……本当に分かっていないのですか?」
「まさかって何ですか。もしかして四夜が敢えておれにやらせているとでも言うんですか? だとしたらそれは単なる上下関係の体現に過ぎませんよ。非常に……全く以て不服ではありますが」
すると東先輩は微笑ましくも、焦れったい創作物の恋路でも眺めているかの様に目を細めると口角を優しく上げる。
「思いは人それぞれですからね。ゆっくり……見つけたら良いですよ」
「二人ともさっきから主人である私を差し置いて話を進める何て何様のつもり? ハッ倒すわよ!」
四夜は胸に抱き抱えていた複数枚のポスターを東先輩に押し付けると、慌てた様に階段へ向かって歩き始める。
「ちょっと私、忘れ物したの思い出したから203号室まで取りに行ってくる」
「忘れたって何を……」
「ポケベルよ……。浅倉先生から連絡がある時は、代表して私のに来るって決まってたのに。迂闊だわ」
急ぎ足で歩いていた四夜はふと立ち止まると、思い出したかの様にこんな事を言った。
「ついて来ないでよね。それと……放課後には203号室のリビングで会議だから。遅刻したりすっとぼけたら死刑なんだから! 良いわね!」
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