君が世界を滅ぼした日 in 1994
誓 メイ
第0章 始まりと終わりのプロローグ
第0章 《記憶の断片》
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この瞬間、俺の中で時が凍った。
「ぁ……ぁ……ぁ……っ」
思わず空気が抜けていく萎れた風船の様に間抜けな声が出て、俺はようやくそれが『ナニカ』を認識する。
嫌に明るい音楽室のほぼ中央で、やけに目立っているグランドピアノに打ち付ける謎の水滴の色が「あぁ……赤いのか……」と理解出来た時には全てが遅かった。
メノトロームの様に定期的に滴る『ナニカ』の赤い水滴が、リズミカルにオルゴールの奏でる音色との不調和音を紡ぎだす。
そのリズムが頭上から聴こえて来るのだと分かり、聴覚の指示するままに怠惰な視線を水滴の出所へと向かわせる。
その瞬間、俺の腰は糸の途切れた操り人形の様にヨロヨロと抜け、尻餅をつく暇もなく崩れ落ちた。
余りの光景に、血走った青筋を浮かび上がらせる眼球以外に力が入らなかったのだ。
そんな俺の眼球が初めに頼りない光彩を結んだのは、微かに光を反射する細い……とても細い透明の糸。
それによって天井のタイルの隙間にくくりつけられた人の『腕』だ。
指先は固く閉じられており、血の滴る深紅に染まった木箱を握り締めて離さない。
妙にくぐもった音色はそれが原因か……などと現実逃避に走る俺のだらしない頭蓋に、拒絶したい景色の情報が、電波として神経を伝って焼き付けられる。
そして、ゆっくりと『ナニカ』を理解する。
大の字に四肢を広げたまま天井にくくり付けられ、身体中の何ヵ所にも赤黒い殺傷痕の見受けられる……
……壮絶な最期を遂げた『
______世界が、流転する。
終わりのないループが、この時……始まろうとしていた。
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