第一章12 《四夜 一期のハッタリは突然に!》
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イヤホンから囁く様に流れる優しい音楽に誘われ、深く心地の良い場所へと落ちかけていた俺の意識が、誰かの手によって乱暴に引き抜かれ無情にも覚醒させられる。
俺の至福の瞬間を破壊した無慈悲な声の持ち主は、細身の小さな体。
腰に手を置いてご立腹な様子の鋭い視線を俺に向ける黒髪ロングの美少女だ。
「先生。授業が始まって早々に悪いんですが、私達用事があるので欠席します」
寝ぼけ眼をこすって、声の主を再び確認する。やはり四夜 一期だった。
「き……君は?授業はどうする積もりだ?」
3限の授業で来た日本史の老人先生は恐る恐る四夜に話しかける。
「昨日転入しました、四夜 一期です。どうせ来年には日本に居ないので日本史とか興味無いです。それでは」
俺は四夜のあまりの発言に、寝ぼけ眼のままあんぐりと口を開けてしまった。
そう素面で生徒にあるまじき発言をすると、四夜は再び俺の方を向く。
「何よ。座ってないで早くついて来なさい」
何気ない表情で不良発言を言い放った四夜は、腕を伸ばして俺の襟首をひっ掴むと強引に椅子から立たせる。
一見するとカツアゲにも等しい行為にも関わらず、されてる当の本人たる俺と言えば、不思議と耳朶にかかる彼女の言葉とその一挙一動がすんなりと受け入れられる様な奇妙な感覚を覚えていた。
何故なのだろう?
まさか俺はMだったのか……?
「それじゃ、先生。授業楽しんで下さいね」
四夜は尚も俺の襟首を強引に引っ張り、出口に向かって歩き始める。
その細くしなやかな腕からは想像も出来ないほどの力強さに、俺はなすすべもなく連れて行かれる。
「いや……楽しむって……」
老人の先生は四夜の言葉に困惑する。
当然だろうな。
連行される俺でさえ四夜の思考原理が理解出来ない。
「私たち付き合ってるんです」
ところがどっこい。凡人たる俺達の思考限界などこの四夜 一期には関係無かった。
そう、四夜は何食わぬ顔で平然と爆弾発言を言ってのけたのだ。
これも、今後何度もある四夜のハッタリの一つに過ぎないのであった。
生徒達の間から多大な驚きと、幾千もの羨望の眼差が集まるが、当然嘘だハッタリだ。そんな訳が無いだろう!
そんな事実など古今東西探してもありゃしないってのに。
それでも俺は、周囲の熱視線に晒されながら連れて行かれる事しか出来なかった。
本当……四夜さんいきなり冗談キツイっすよと思い、藁にもすがる思いで遠くなる村田 翼に目線を送れば……
既に
眠ってろ……フォーエバ~。
「それじゃあ失礼しました。」
にこやかに宣言すると四夜は俺を教室の入り口前から廊下に突飛ばし、自分も教室を出る。
錯乱状態に陥ったクラスをバックにドアがガラガラと閉まった。
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