第二章42 《タイムトラベルの真相は突然に!》前編
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落下防止用の金網にもたれ掛かっている水城あずさ のスレンダーな体躯と清流のように風に吹かれる水色の髪は、澄みわたる青空と、遠く広がる東京特有の下町をバックにただそれだけで絵になる程の美しさだった。
「それでね、ここなら立地上何処かから覗かれる事も無いし、もし昆虫ドローンの一種が来ていても直ぐに気がつける。その上立ち入り禁止のお蔭で野外の目も気にしなくて良いんだから、やっぱりここ以上の場所は無いわね」
「ううっん……」と妙に色っぽい咳払いを1つ払うと、話しを続ける。
「これから四夜さんを助ける話しを始めるに中っての前提条件だけど、その前に聞いておかなきゃいけない事があるの。あなたがどれだけ『P-jumpシステム』について知っているか、先に教えて」
俺は彼女の言う『P-jumpシステム』と言う言葉に、ふと首をかしげる。
「いや、そんな名称は聞いた事も無い。何なんだそれは? ひょっとしてタイムトラベル理論の何かか?」
「いえ、それとこれとでは限りなく似ているけど、決定的に違う。もっと残酷な理論なの」
「何だって。 残酷な理論……?」
水城はその形の良い小顔をコクリとうなづかせると、一言一言……発する言葉を選ぶ様に紡ぎ出す。
だがしかし、それは現在の俺を根底から覆す様な衝撃的な内容だった。
「そのね……厳密に言えば私達は、決して時間を遡ったり、言い換えるならタイムトラベルをしている訳では無いの。私達が今こうやって体験している現象ではアインシュタインの残した相対性理論を、ブラックホールの壁を決して越えられない。限りなくタイムトラベルに似ている『紛い物』でしかない」
「……は? ちょ……今何て?」
彼女は風で乱れた淡い水色の長髪を手櫛でサラリと耳の後ろへと掻き戻していた。
「言葉の通りなの。私達は___」
「ちょっと待ってくれ。言っている意味が……わからない。だってほら、現に俺達は水城さんが時間を遡ったお蔭で二回も過去をやり直してるじゃないか。」
俺は彼女の言う衝撃的な内容に慌てて抗議する。
だってそうだろう? と己の心の声が囁いていた。
慌てていた為に彼女の言葉を途中で遮る様な形になってしまったが、それはもはやどうでも良い事だ。
今はそれより……
「じゃあ、他世界解釈って言葉を知ってる?」
俺が静かに首を横に振ると、彼女もまた静かに口を開いた。
「今私達がこうやって存在している世界は、『あの時こうだったら』とか『もしこうしていたら』とか、そう言う曖昧な選択の上に成り立っているの。そんな中、昔の人は考えた。もし……」
「もし、あの時の選択を変えていたら、今の世界は変わっていたのだろうか。そう言う類いの話しだろ?」
「あら……分かってるじゃない?」
「難しい理論とかの話しになったら分からないと言うだけの事だ。流石に概念としては知ってる」
恐らくパラレルワールドと言う類いの机上論だろう、と俺は考えていた。
ゲームやラノベで良く耳にする単語だ。
しかし実際には、そう考えかけた所で彼女の言葉が思考を遮る。
「今話した事は私達人間でも認識可能なほどに大きな世界の分岐と言える。でも実際には世界はもっと細分化され、無限に存在している。例えば昆虫の生死、例えば目に見えない程のプランクトンの一挙一動、例えば素粒子の細かな振動性。これら人間には観測不可能な事象が少しでもずれる可能性が有るなら、そこに無限の平行世界は、『パラレルワールド』は存在すると言える」
ずいぶんと学者チックな口調をする奴だなと思いつつ、俺は一般的な反論を口にする。
「そんなの机上の空論に過ぎないだろ? 存在を観測する事も不可能なのに、どうやって分かるって言える?」
「何故なら、存在が確認されたからなのよ……」
俺は思わず固唾をのむ
「何だって……」
「2082年から来た未来人、Jaynou《ジェイニュー》 Oliver《オリヴァー》 Beck《ベック》の手によって」
「ジェイニュー・オリヴァー・ベックだと!?」
「ええ、しかも彼は他世界理論の解釈を証明しただけに飽きたらず、神の存在まで証明したの。自らが未来人である事を証明する為にね。でも神の存在解釈については私の時代では理解不能だったらしいけど……」
そう言いかけた直後、「ちょっと待って」と一言呟くと彼女はギョッとした表情で間合いを縮めて来て、そままの勢いで俺に問い詰めてた。
「その返事……。まさかっ」
まさか?
まさかとはなんだ?
一体何に水城さんはそこまで慌てていると言うんだ?
「もしかして、彼の事を知っているの?」
「あ……ああ。一部界隈では中々に有名だったからな」
彼女は更に質問を重ねる
「どうしてジェイニュー・オリヴァー・ベックの名前を知っているの!?」
「どうしてと言われても……言ったとおり彼はネットの一部界隈では有名人じゃないか。『DTube』のAPEX TVチャンネルは知っているだろう? そこで4932年から来たと言う自称タイムトラベラーの男が語っていたとあるアメリカ人の男の存在、未来のアメリカ大統領である彼こそがジェイニュー・オリヴァー・ベックだ」
そんな筈がない、と戸惑う水城あずさ。
俺も彼女も平静を保とうと焦っていた。
「どう言う事なの! どうしてあなたが彼の事を……。 4932年の未来人何て知らない。彼が来たのはあなたが居た2026年よりもっと未来にタイムトラベルしてきた人間だから……」
だからなんだと言うんだ
なんだと……
「あなたが彼の存在をを知っている筈がないの。よりにもよって、この時代のあなたが」
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