第二章35 《繰り返す過ち》
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世界が流転する。
何処を見渡しても一面の『無』が広がるこの世界では不思議と『有』が産み出される。
浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返す無数の時計が、この白色虚無な空間の実態を如実に示している様にも思えてくる。
だが、不思議と嫌な気持ちはしない。
浮遊しているのか、はたまた自由落下しているのかさえ未だ定かに成らないここでは、『君』だけが俺を優しく包み込んでくれるのだ。
世界から俺と言う存在がいた記憶が綺麗に洗い流され、誰も俺の事を、俺が干渉してきた事象を忘れたとしても、きっと『君』だけは覚えていてくれる。
これは妄想ではなく確信なんだ。
だから……
『諦め無いで、悲しまないで、苦しまないで』
どうして、過去にいても未来にいても、『君』は俺の事をそうやって励ましてくれんだ?
『大好きな人を応援する事がそんなに不思議ですか?』
恥ずかしい事を言ってくれるんだな。
『私はいつ、何処のどんな時代にいても貴方を愛している。これは世界線収束による確定事項、なんですよ』
タイムスリップによる弊害が、こんなにもロマンティックに聞こえたのは初めてだ。
『ウフフ……そうですね。でも、もうそろそろの様です』
ああ、もうそろそろの様だな。
次第に世界に細かいヒビが入り、取り返しが付かなくなるまで一気にそれが広がり、この空間の終演を物語る。
それと同時に抱き合っていた俺達は自然と離ればなれになっていく。
気が付けば崩壊は目映い光となって視界を覆い尽くしてしまった。
名残惜しい……だが、行かなければいけない所がある。
待っていてくれ、いつか必ず俺が『君』を救って見せる。
愛してるよ……※※※※※※※※※※※※※。
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覚醒はまたしても苦しい物だった。
相変わらず脳天から巨大な針を突き刺したような強烈な痛みが頭部を襲う。
「うぐ……くそっ、毎回これかよ」
脳が鬱血しているのか、貧血状態の四肢が凍える様な悪寒を覚えるし、痺れもある。
それに、目を開いていると言うのに真っ暗で何も見えやしない。
それなのに、不思議と涙腺の辺りからは熱い物が込み上げて来る。
ポッカリと穴あきになってしまった心から大切な記憶が抜け落ちてしまった様な焦燥感に駆られる。
「…ァー? ね……聞い…ほ………だけど」
ああ、なんだ。
いるじゃねぇかそこに。
空洞化した胸の辺りに『色の違う』新たな火が灯っていくのが分かった。
段々と闇が晴れていく。
溢れんばかりの涙が顔の輪郭から漏れだし、拭う事も忘れてポタポタと目下の机にその滴を落とす。
気がつくと、そこは以前と変わらぬ四夜の机だった。
反対向きに座って対峙するように顔を付き合わせていた5時間前の風景に逆戻りしてしまった訳だ。
「ちょっと……りょうた?どうしたのよ」
こういう時だけ四夜は、あの憎たらしいあだ名ではなく本名で呼んで来る。
ああ……駄目だ。
涙が止まらねぇよ……。
四夜に酷い事を言ってしまった。
四夜の思いを汲んでやれなかった。
そして何より、またタイムトラベルが起こっていると言うことは
「ごめん……ごめん……ごめん……」
俺はまた、四夜を助けてやれなかったのだ。
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