第33話 屍人の常識


「おはようございます」

「おはようクオン君! いい日和だね! 」


「ええ、そうですね」


 クオンとマダラがヤスナガの屋敷の訪れると、開口一番にイッキューが元気よく挨拶する。

 かれはヤスナガとティアの三人で朝食を食べている最中だった。


「実に気持ちのいい青姦日和だね! 」

「……そうですね」


 ニカっと白い歯をキラリと光らせながら答えるイッキュー。


(青姦日和って……あれは朝の挨拶のつもりなんですかね? )

(多分、そうなんだろうなぁ……)


 独特の言い回しに苦悩するクオンとマダラ。

 ヤスナガも苦笑している。

 困り顔でヤスナガがフォローに入る。


「イッキューさんは王種の割に身分分け隔てなく優しいですね」

「当然だよ! 魔神ネール様の名の元に人は平等だよ! 雑種とか貴種とかで人の良し悪しが決まるわけが無い! 」


(セ〇クス以外はまともと言おうか……)

(高位の神官らしくまっとうなこと言いますよね……)


 エロを除くと高位の神官らしく、真っ当なことを言う。

 続けてイッキューは元気よく声を上げる。


「大切なのは体の相性だよ! 」


(この人が神官やってるのは正しいんでしょうか? )

(俺に聞くなよ)

(人間の尺度だったらどうなるのかなって……)

(速攻で牢屋に入れるレベルの変態だよ)


 戸惑うクオンの質問に答えるマダラ。

 するといつの間にか来ていたセツナが目をキラキラさせながらクオンの腕に絡む。


「だそうですよ? 私と相性をチェックしておきましょうクオン君? 」

「いらん」


 セツナの絡めてきた腕を乱暴に振りほどき、尚も抱きつこうとするセツナを力づくで離そうとするクオン。

 そうこうしている内に三人はご飯が食べ終わる。


「うむ。おいしいご飯でした。ごちそうさまです」

「お粗末さまです」


 イッキューが礼儀正しくお礼を伝えると、女中のメイカが優しく答える。

 メイカが片づけを始めると「ありがとうございます」とお礼を言って立ち上がる。


「では歯を磨いてきます。タルタはその間に準備を頼む」

「かしこまりました」


 そう言ってイッキューがスタスタと井戸に向かう。

 その間に手早くタルタが荷物の準備を始める。

 不思議に思ってクオンが尋ねる。


「タルタさんは歯磨きしないのですか? 」

屍人ゾンビですので歯を磨く必要が無いのです。そもそも毒を食っても死にませんので熱湯や強いお酒で口をゆすぐだけで虫歯になりません」


 身支度の整え方が一味違うことに驚く全員。

 そもそも死なないからやり方が変わってくるのだ。


「そんなわけで熱湯をご用意お願い出来ますか? 」

「わかりました」


 苦笑してメイカが熱湯を取りに行く。

 感心したようにヤスナガが尋ねる。


「とても屍人には見えませんがそういうところは死人なんですね」

 

 屍人は腐った体をしており、力は強いが動きも鈍く、醜い体つきをしているのが普通だ。

 彼らとて屍人に一度会ってはいないが、こんなに綺麗だと疑ってしまうのが普通だ。

 タルタが少しだけ嬉しそうに話す。


「イッキューが優れた術師でもあるからです。『女性なんだから可能な限り美しくあるべきだ』と言ってこまめに見てくれるので綺麗な身体を保てるんです」


 そう言って胸を張るタルタ。

 プルンと立派な乳房が揺れ、着物の裾からちらりと見えそうになったが、セツナが眼をふさいだので見れないクオン。

 クオンが恨みがましくセツナを睨むが構わず話を続けるタルタ。


「普通の術師は面倒がってそこまで見ませんからね。私が知る限りここまで綺麗な身体を保とうとしてくれるのはあの島の術師だけです」

「というとあのラダロアというところですか」


 ヤスナガの質問に手早く荷物をまとめながらティアが答える。


「そうです。鎮魂神官が多いので当然ゾンビも多いのですが……大半がセ〇クスの相手でもありますので見栄えが悪いのは困るのです……」

「なるほど……」


 タルタの言い分に苦笑するヤスナガ。

 まあ、どんなにカッコいいことを言っても見栄えが悪いのは困るのだ。


「ただ、私は感謝してますよ。死んでからもう一度人生をやり直したような物ですから、今はとっても幸せです」

「幸せ……ですか? 」


 タルタの言葉にクオンは不思議そうな顔になった。


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