第37話 手配書

 クオンに渡された手配書には、神官の振りして村を荒らしまわるのが彼らの手口なので注意すべしと書かれてある。

 中には村を全滅させたケースもあるようだ。


「こいつらは村に溶け込んで少しずつ襲っていくそうだ。気付いた時には村が全滅する寸法だ。危険だから何とかして倒すよ」


 そう言って奥さんが焦ったように答える。

 クオンもそれを聞いて背中に冷たい汗が流れる。


「どうします? 相手は王種ですよ? 」

「王種と言っても神官だろう? 崖から突き落とせば倒せる。それに女はゾンビなんだろう? 神官の方を殺せばどうにかなるよ」

「……なるほど」


 当然だがゾンビはあくまで従者である。

 主である主人が死ねばそのまま崩れ落ちる運命にある。

 それゆえにゾンビは術者を本気で守るのだ。


「そんなにうまく行くでしょうか? 」

「しなければならない。それともそれ以外の方法で出来ると思うか? 」

「・・・・・」


 奥さんに言われて気づくクオン。

 現在この村で今一番強いのはクオンだ。


 プップが鎧になった時だけだが、それ以外には倒せる方法は無い。

 だが、それにしたって戦力は未知数なので、王種二人を相手に倒せる程では無い。


「そんなことしそうに見えないんですけどね~」

「そうだな~」


 怪訝そうなクオンとマダラ。

 先ほどまでのやり取りで大体の人となりが分かってきたからだ。


 悪事を行うような人間は行動の節々にその腐った性根が現れる。

 イッキューにはそういった部分が見当たらなかったのだ。


 だが、奥さんは声を荒げる。


「手配書に書いてあるだろう? 『村に溶け込んで悪さする』それが奴らの手口なんだよ。それにこの国に黒人なんてそんなに多いかい? 」


 奥さんの言葉に唸るクオン。

 この国に多い肌は黄色、白、青、緑なので黒はあまりいない。


(あれだけの人格者がそんな真似やりそうに無いんだがなぁ……)


 マダラは信じられないでいる。

 クオンも同じ意見だった。


「とても信じられません」

「それがあいつらのやりかたさ。ほっとくと村が全滅する。やるしかないんだよ」


 そう言って奥さんがクオンの胸倉を掴んでくる。


「しっかりするんだよ。やらなければネール様の裁きが待ってるよ」

「……えっ?」


 その言葉に凍り付くクオン。


「どういう意味ですか? 」

「私達神官は邪悪な者をネール様に伝える事が出来る。邪悪な者はネール様の裁きで地獄へ行くのは聞いた事があるだろう? 」

「……はい」


 冷や汗をだらだら流しながらクオンはうなずいた。


「だったらやるんだよ。私達が村を守るんだ」

「……わかりました」


(なんてこった……)


 マダラまでもが表情を凍り付かせる。

 何をやるべきかがわかったからだ。


「でも、場所はどこにするんですか? そんな都合のいい崖なんて……」

「丁度、あいつらの言った淀みの近くに切りたった崖がある。そこでやるんだよ」

「わかりました」


 クオンは力なく頷くしかなかった。


「ププ~……」


 プップも困り顔で鳴いた。


 そして、しばらく経ってから、全員で淀みに向かうことにした。

 切り立った山道を歩きながら、イッキューは申し訳なさそうに言った。


「すみません道案内までお願いして」

「いえいえ。これも神官としての務めですので」


 ネギ神官がにこにことイッキューと話しながら山道を歩いて行く。

 淀みの場所は結構山深い所にあり、進むに連れて道が険しくなっていく。


「ぷぷ~」


 後ろからパタパタと羽音を鳴らしてプップがついてくるが元気はない。


「クオンさんどうしました? 」


 タルタが不思議そうに声をかける。


「さっきから元気がありませんよ」


 タルタの言葉に困り顔のクオン。


「クオンはあんまり山に慣れてないんだよ。疲れ気味なんだ」

「……そうですか」


 奥さんが誤魔化すように弁解する。

 それを聞いてタルタは怪訝そうな顔をしたものの、それ以上聞かなかった。


(あんまり顔に出しちゃダメだよ! 気付かれちゃうだろ! )


 奥さんが小声で注意する。


(……すみません)


 それに対して力なく謝るクオン。


(もうすぐ崖だよ。うまくやるんだよ)


 そう言って奥さんがクオンから離れ、タルタさんと話し始める。

 どうやらクオンの様子がおかしい事をごまかしてくれるようだ。


「ちょっと一息つけましょう。ここからだと眺めがいいですよ」


 そう言ってネギが崖の側にイッキューを誘導する。


「よっこらせっと」


 奥さんが崖とは反対側のより安全な所に腰を下ろす。

 すると、旦那であるネギも自然と奥さんの側に近寄り、

 タルタがイッキューの側に寄り添う。


「いい景色だ。タルタも見てごらんよ」

「そうですね」


 そう言って二人が崖の側で景色を眺めている。

 ネギ夫妻がやれと合図した。



(これはもうやるしかないな)

(はい! )


 覚悟を決めたクオンはイッキュー達に近寄る。


「淀みはちょうどこの下だし。帰りはここで青姦をしよう」

「……そうですね」


 イッキューの言葉にタルタが苦笑する。

 クオンは迷わずイッキューの肩に手を置く。


「すみません」


 そう言ってクオンはキョトンとするイッキューの肩に思いっきり力を掛けた!


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