第38話 百腕巨人
「すみません」
そう言ってクオンはイッキューの肩に置いた手に力を入れた!
ぐい
イッキューは崖から引き離されるように道の真ん中へと引っ張られる。
「おおっと!」
ころんと座ったままの姿勢で転がるイッキュー。
「急にどうしたんだい?」
「クオンさん?」
不思議そうに二人が立ち上がるのだが、クオンは二人にニコリと笑い、くるりと後ろにいるネギ夫妻の方を見る。
「おい……」
拍子抜けしたようなネギ神官の声が聞こえる。
「どうしたんだいクオン君? 」
「……クオンさん? 」
イッキューとタルタが不思議そうに声をあげる。
するとクオンがしっかりとした顔でこう言った。
「イッキューさん。質問なんですけど、ネール様は魔人が死んだ後に裁きを行いますか? 」
それを聞いて不思議そうにイッキューが答える。
「裁きを行うのはネール様のしもべにして、最初のネフィアであるラムリス様の仕事だ。ネール様は神々の裁判官であって、人間の裁判官ではない」
(そうそれが正解だ……)
イッキューの言葉にマダラも真剣な顔でうなずく。
良く言われる民間伝承の間違いで、裁きを行うのは魔神ネールでは無く、裁判神ラムリスであるとエルミング経典に書いてある。
それに、神官が人々の悪行をネール神に伝えるというのも民間伝承の誤りである。
(前回、俺たちが行ったときにそんな話をしてたからな……)
(他ならぬネギさん本人が怒ってましたからね……)
(そしてそれを間違えるということは……)
(こいつはネギではない)
素で間違えたクオンとそれを指摘したマダラなのではっきりと覚えていた。
「なんで間違えたんですかネギさん?」
クオンの問いに黙り込む二人。
真剣に注意を払う二人とその様子に気付くイッキュー達。
「・・・・・・・・・」
ネギ夫婦改め謎の二人組は黙り込んでいる。
クオンは注意深く尋ねる。
「答えてください……ネギさんならこたえ……」
「クオンさん! 」
びゅおん!
いきなり何かに首根っこを掴まれたクオンは後ろに引っ張られる!
ドグシャァ!
大きな爆発音の後で、崖の側にあった木が燃えて崖下に落ちていく。
「危なかったね」
クオンの隣にはイッキューがいた。
そしてその下には何も無い。
「イッキューさんどうして浮いて……あれ? 」
良く見るとクオンも崖から大分離れた所に浮いている。
クオンが腰のあたりに違和感を感じたので見てみると、何か触手のような物が腰に巻き付いていた。
マイッキューの腰にも同様のものが巻き付いており、それの出所をみてみると……
「タルタさん? 」
見るとタルタはすでに巨人に変身しており、彼女の腕はいくつもの触手を束ねた物に変わっている。
左腕から伸びた触手の二つがクオンとイッキューに巻き付いており、右手の方はと言うと……。
ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!
崖上の二人を破壊しつくそうと猛烈なパンチを繰り出している。
「王種
「百本腕は伊達じゃないですね」
その凄まじい攻撃のために崖が一気に崩れる!
だが、巨大化したタルタはがけ下に下りてそのまま崖に向かって無数の触手を叩きつける!
「あれだってまだ加減してるほうだよ」
「凄まじいですね……」
「地形変えてるじゃねぇか……」
クオンとマダラが感嘆の声を上げる。
あたりにはもうもうと土煙りが上がっている。
「ところで何がおこったんだい? 僕には見当もつかないんだけど? 」
イッキューが不思議そうにつぶやく。
「あの女性がイッキューさんを崖から突き落として殺せと言われたんです。でも神官としておかしなこと言ったからニセモノだとピンと来たんです」
そう言ってクオンが簡単に先ほどのことを説明する。
それを聞いて苦笑するイッキュー
「なるほど。では彼らは……」
「手配書に書いてありました。黒人と白人のカップルの強盗だそうです」
「僕達と一緒だねぇ……」
苦笑するイッキュー。
だが、すぐに訝し気な顔になる。
「でも変だねぇ。二人とも黄人に見えたけど? 」
「……あれ? 」
「言われてみればそうだな……」
首を捻るクオンとマダラ。
するとタルタが不思議そうに声を上げる。
「イッキュー。様子がおかしい。手ごたえが一切ない」
そう言って崖の方を触手で指さすタルタだが、土煙りが酷くて見えない。
「どうやら逃げられたようね……」
「むぅ……」
イッキューが眉を顰める。
濛々とした土煙が晴れても誰も居なかった。
改めてイッキューがクオンに尋ねる。
「……手配書には何て書いてあったんだい? 」
「黒人の方はカラフルな服を着て神官の振りをするとしか……白人の方も巨人に変身するので露出度の高い服を着ているとしか書いてありませんでしたけど……」
「……なるほど。タルタ。一度下におろしてくれ。そこの淀みのところだ」
「了解」
そう言って全員で崖下に降りることになった。
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