第39話 二人組の正体

 イッキューの言葉で一度、がけ下に下りることになった三人。


 するすると触手が下へと向かっていき……


ぐにゅ


 クオンが地面に下ろしてもらうと同時に何か嫌な感触がした。


「うわ! なんか踏んだ! って死体がある!」


 死体を踏んでしまって、さすがに嫌な顔をするクオン。


「大丈夫ですかクオンさん」

「大丈夫です。ただ遺体が……」

「クオン君ちょっとまって……」


 そう言ってイッキューが遺体に近寄る。


「……ネギさんだね」

「……え? 」


 良く見ると遺体の服はネギの服だった。

 マダラが驚いて声を上げる。


「おいあんた……」

「申し訳ない……」


 マダラの声に泣きながら答える声があった。


 半透明の死霊と化したネギが姿を現した。

 ネギはさめざめと泣いている。


「私があのような者たちを迎え入れなければ、こんなことにならなかったのに……」


 悔しそうに泣きながら訴えるネギ神官。

 驚いたクオンがネギ神官に声を掛ける。


「一体何があったんですか! 」

「お前がその幽霊を連れてきた次の日の夜に、あの夫婦が来てな……」


 ネギは悔しそうに語った。

 隣村の神官の紹介状を持ってきており、安易に家に入れてしまったらしい。

 だが……


「入れてしまってから回覧されてる手配書の二人と似ていると気づいてな。こっそりヤスナガ様に伝えようと逃げ出した所を奴らに見つかり、追いかけまわされた挙句に……」

「殺されたと……」

「そうだ……」


 マダラの言葉に悔しそうに泣くネギ。


「あまりの悔しさに怨霊となっておったら淀みを生み出していたようじゃ……わしは神官として失格じゃな……」

「そんなことないです! 」


 さめざめと泣くネギ神官とそれを慰めるクオン。

 するとイッキューが声を上げた。


「ご安心めされよ。拙僧が必ずやあの二人を仕留めて見せます。安心してお眠りください」

「申し訳ありませぬ……」


 悔しそうに泣くネギ神官に優しい目で問いかけるイッキュー。


「しかしながら、奴らは一体どんな能力を持っているのですか? 今一つわかりにくいのですが……」

「やつらは幻影巨人ウートガルザ火焔魔人イフリートです。細かなことが手配書に書かれていました……」

「……なんですと? 」


 イッキューが渋い顔で呆けた声を出した。

 死霊となったネギ神官の言葉にイッキューとクオンが困った顔になった。

 平然としているのはタルタだけだが、マダラもきょとんとしていた。


「なんだ? ウートガルザとイフリートってのは? 」

「ウートガルザとは幻覚を生み出す巨人でイフリートは熱魔法を操る王種です」


 熱魔法とは火を操る魔法のことをさすが、熱を操るので冷気も同時に操れる。

 そして巨人とは先ほどのタルタの様に3丈を少し超える程の大きさ(およそ10m)の巨人で幻覚を生み出すことが出来る。

 それを言われてマダラも気付いた。


「ひょっとしてさっきの頭痛は幻覚か? 」

「恐らく……特にあなたは霊魂ですので大きく影響を受けたのだと思います」

「そうなのか? 」

「ええ、

「……なるほど……」


 クオンの言葉に納得するマダラ。

 実は魔法は霊魂の方が効きやすい。

 物理攻撃が効かない代わりに魔法は効きやすいのだ。


「だが、そうなると厄介だな。敵が強すぎるな」

「そうですね。それに村への被害も大きくなりそうです」


 マダラの言葉にクオンは渋い顔をする。

 

 王種の数はどちらも二人。

 だが、タルタの方はイッキューのゾンビなので通常の王種よりは強いが、一方でイッキューは戦闘力の低い鎮魂神官である。


 戦力的にはこっちの方が弱い。

 実際、イッキューも渋い顔をする。


「まずいね。相手が手強過ぎる。よほどうまく嵌めないと倒せない」

「それに村への被害も甚大になりかねない……」


 イッキューとタルタが難しい顔をする。

 そんな時だった。


「ぷっぷ~♪ 」


 ぴょこんとクオンの背中にプップが乗っかる。

 マダラが苦笑する。


「こいつ生きてたのか」

「そういえばお前がいたな」

「??? その子がどうかしたのかい? 」


 クオンとマダラの様子を見て不思議そうに尋ねるイッキュー。


「……一体何じゃその生き物は?」

 

 ネギ神官も不思議そうな顔になる。


「実は……」


 クオンはこの前のアリクイ騒ぎについて説明する。

 すると、イッキューは訝しげな顔で首を傾げた。


「なんだいそれは? そんな事が出来るのかい? 」

「はい。といってもこちらもなぜそんな真似ができるのかよくわからないのですが……イッキューさんは同じ話を聞いた事はありませんか? 」

「全く無いねぇ。そんな話は初めて聞いたよ。本当にできるのかい? 」

「実は一回しかやった事が無いのでまたできるかどうかも良くわかってないんです……」

「当てにならないねぇ……」


 苦笑いするイッキュー。

 ネギ神官も不思議そうにする。


「……けったいな話じゃのぅ。何か魔獣はクオンが倒したとは聞いておったが、そんな理由とはな……」


 ネギ神官は首を傾げて考え込む。

 マダラは不思議そうに声を上げる。


「今のうちに鎧になってもらえばいいんじゃないか? ちょっとどこまでできるかやってみよう」

「おお! そうですね! 」


 マダラの言葉にぽんっと手を打つクオン。


「じゃあ、プップ頼む! 」

「プップ~♪ 」


ビカッ!


「ぐぉ!」


 大きな光が出てクオンとイッキューの目がつぶれた。


「次回から先に言ってくれないかな? 」

「すんません! すんません! 」


 苦笑するイッキューに平謝りするクオン。

 一方、平気なタルタは何故か腕を再び触手状に変えた。

 何本もの触手が腕の付け根から生えたビジュアルは控えめに言っても不気味だ。

 クオンの目が回復するのを待ってからタルタは言った。


「ではちょっとやってみましょう」

「わかりました! 」


 タルタが触手を色々動かして、それに対抗してみるクオンとマダラであった。

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